研究課題/領域番号 |
15K17982
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志賀 拓麿 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10730088)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フォノン輸送 / 界面熱輸送 / フォノンコヒーレンス / 熱電変換 / 分子動力学法 / 格子動力学法 / グリーン関数法 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究では密度汎関数法と分子動力学法,格子動力学法,原子グリーン関数法をハイブリッドした熱輸送解析法を用いて,ナノ構造界面のフォノン輸送における弾性・非弾性散乱の影響,および界面・バルク領域切り分けのためのフォノン・コヒーレンス長評価を目的とする.ナノ界面熱輸送の研究ではフォノンの干渉効果を利用した二つのユニークな界面に対して界面熱コンダクタンスの最小化を図った.Si-Geナノ構造メタ界面では,Si-Si,Si-Ge-Siの二つの伝搬経路で生じる位相差を変調するために相互作用強さを変えた結果,界面熱コンダクタンスならびに系全体の熱伝導率が最小となる相互作用強さの比を同定した.一方,Si-Ge超格子系ではグリーン関数法とベイズ最適化を組み合わせたアプローチにより,界面熱コンダクタンスが最小となる超格子周期と厚みを同定した.通常干渉を利用した輸送制御では強め合う干渉により界面熱コンダクタンスが増大するが,本研究で同定した構造はこの効果を最小化する機能を有していることが明らかになった. フォノンコヒーレンスに関する研究では,昨年度作成した計算アプローチを異なる厚みを有するLennard-Jonesモデル結晶に適用し,周波数に依存したコヒーレンス長の計算を行った.その結果,コヒーレンス長は周波数に強く依存し,0.1-1000nmの幅広い値をとることがわかった.また,3フォノン散乱のみを考慮した非調和格子動力学計算によって得られた平均自由行程と比較したところ,概ねよく一致する傾向が得られた.界面・表面粗さや不純物がない場合,フォノンが位相を失う過程はフォノン-フォノン散乱のみによるものであるから,得られた結果は妥当であるといえる.また得られたコヒーレンス長をもとに,輸送がコヒーレント・インコヒーレントであるフォノンを切り分けて熱伝導率を計算し,非平衡分子動力学法の結果と比較を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ構造メタ界面では相互作用強さを変調させることで,干渉効果によるフォノン輸送抑制効果をさらに高めることに成功している.本計算では理論的裏付けのために界面中の原子間相互作用をチューニングしているが,元素種を変えることによっても同様の効果が得られることから,本研究で得られた知見は単に学術的なものに留まらず,ナノレベルの界面構造制御が系全体の熱伝導制御につながる.一方,ベイズ最適化と原子グリーン関数法を組み合わせた計算手法を界面熱輸送制御に応用した研究は,マテリアルズ・インフォマティクスを界面系に適用した世界初の研究であり,数万種類の候補の中から界面熱抵抗が最大となる界面構造を効率的に見つけることに成功した.本研究で得られた非直感的な界面構造は高界面熱抵抗という機能以外にも豊富な物理を含んでいる.本研究では計算手法の有効性の検証を目的としており対象系は限定的であるが,手法の効率化によって大規模系の展開も見込めており,実際の材料開発が期待される. フォノンモンテカルロ法を基礎としたマルチスケール熱輸送解析に必要なバルク結晶の熱伝導率スペクトルは現在第一原理熱伝導解析法によって得ることができるが,本手法は結晶構造が複雑な材料に対しては適用が難しい.そこで計算負荷が高い格子非調和性を露わに用いずに,比較的容易に求まるフォノンの調和特性(フォノン分散,群速度)のみを用いて周波数に依存した緩和時間・熱伝導率スペクトルを計算する手法を開発した.熱電材料の多くは低熱伝導率を有する複雑な結晶材料であることから,本手法を用いることで熱伝導率スペクトルが容易に求まることはもちろんのこと,スペクトルデータを入力とすることでマルチスケール熱輸送解析が実施できるため,高熱電性能化に向けたマテリアルデザインにつながることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
界面熱輸送解析では,ナノ構造メタ界面や界面系へのマテリアルズ・インフォマティクスの応用は継続課題として進める一方で,界面における非弾性散乱を利用した新しい熱輸送チャネルの発見に向けて,非弾性散乱が界面熱抵抗に与える影響を定量的に評価する.本課題の一部は非平衡分子動力学計算によりすでに実施済みであるが,界面の弾性・非弾性散乱を切り分けるには,界面での熱流束をスペクトル分解しなければならない.スペクトル分解や非弾性散乱を独立に取り込む方法として,Saaskilahti-Chalopin法やButtikerプローブ法などがあるため,これらの手法を実施・発展させながら界面非弾性散乱が熱輸送に与える影響を包括的に理解していく.さらに,得られた結果をナノ構造メタ界面やマテリアルズ・インフォマティクスなどに統合することで,新しい輸送機能を有した熱機能界面の開発に繋げていく. 一方,コヒーレンス長の研究では今年末までに構築した計算手法を超格子や合金,界面など幅広い系に応用し,フォノンコヒーレンスに関する学理を深めることはもちろんのこと,平均自由行程と比べることでフォノンの特性長自体の整理を行う.最後にコヒーレンス研究で得られた構造制御における特徴長さの情報をもとに,波動フォノン・粒子フォノンのハイブリッドによる新規熱伝導制御方法の指針を得る.
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