本年度は数ナノメートルの直径を有するゲルマニウム・ナノ粒子が埋め込まれたシリコン中のフォノン波束動力学シミュレーションを行い,ゲルマニウム・ナノ粒子による共鳴を利用した界面フォノン透過率および界面熱コンダクタンス制御を行った.その結果,界面熱コンダクタンスに寄与する2テラヘルツ以下の低周波・長波長フォノンの伝播を効率的に抑制することに成功した.さらにナノ粒子の直径や多数のナノ粒子間の距離を変えることで,比較的フレキシブルに共鳴周波数を変えられるのに加え,ナノ粒子の空間配置に対するフォノン伝播抑制効果のロバスト性を確認した. 干渉や共鳴などのフォノンの波動性を局所的に利用した界面フォノン透過率制御が材料全体の熱伝導に及ぼす影響を評価するため,多数のナノ粒子が一体焼結したナノ多結晶体の熱伝導率を第一原理にもとづいて計算したところ,干渉・共鳴による界面フォノン透過率制御によって,熱伝導率の温度依存性を大きく変調できることを実証した.さらに通常の熱伝導率の温度依存性とは異なり,室温以上の高温領域においても熱伝導率が温度に対して単調的に増加することが可能であることを示した. 熱伝導率の温度依存性の冪が異なる材料を接合すると熱整流性が発現することから,これまでに得られた知見に基づいて構造制御による熱整流性向上を図った.一般的に異種材料を接合するとフォノンのスペクトルミスマッチにより界面熱抵抗が生じるため,グラフェンの片側に空孔を導入した非対称構造化グラフェンを対象とし,温度勾配の向きによる熱流の差をフォノンモンテカルロシミュレーションによって評価した.構造化・非構造化グラフェンの長さや,空孔のサイズ,空孔濃度などの種々の構造パラメータが熱流性に与える影響を系統的に評価した結果,空孔サイズが5ナノメータ,空孔率が25%のときに60%程度の熱整流特性を持つことが明らかになった.
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