本研究では,金属薄膜で作られたセンサを用いて,その電気的・熱的特性に及ぼす水素ガスへの暴露時間,ガス圧力(水素分圧),センサ温度等の影響を実験的に明らかにする.そして,水素の影響の有無を確認するとともに,その再現性,可逆性などを定量的に評価してメカニズムを解明する.研究最終年度の平成29年度は,前年度に引き続き水素ガス暴露用真空容器とガス供給システムを用いて水素ガスの暴露が白金薄膜の電気的,熱的特性に与える影響を明らかにした.水素ガスへの長時間暴露の影響は暴露開始から12日間に渡ってほぼ安定しており,曝露前後での温度上昇の差は0.2K程度しかなかったため,白金薄膜マイクロビームセンサを水素検知器として応用することは可能であると考えられる.一方で,センサの電気的特性は水素ガスへの暴露により電気抵抗値が約1%低下すること,また抵抗温度係数は約3%低下することが確認された.さらに,水素中での電気的特性は曝露実験前の電気的特性へと戻ることは無く,水素を導入してすぐ見られた電気抵抗値が低下する現象は不可逆であった.したがって,電気的特性の変化はセンサの温度上昇量には影響を及ぼしておらず,白金マイクロビームセンサを水素検知器として応用することは可能であると考えられる.次に,水素ガスの暴露に伴う電気的特性の変化は水素ガス以外の気体を用いた実験には見られないことから,水素特有の反応であることが考えられる.センサの周囲気体の熱伝導率の変化を捉える本方式の水素センサにとって水素特異的に反応が起こることは,新しい水素センサの開発に非常に有用な知見となる.
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