研究課題/領域番号 |
15K17998
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
門脇 廉 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10735872)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 粘度 / せん断粘度 / 体積粘度 / 瞬時振動数 / 超音波 |
研究実績の概要 |
対象の液体から試料を抽出して行う従来の粘度測定では,容器封入後の液体製品や配管内の液体を検査できない.そこで本研究では容器壁の外から超音波を投射し,液体での反射波または透過波の非線形な変調に注目して粘度を同定する手法の開発を目指している.また,超音波には簡便かつ安価な装置で送受信可能なパルス波を用いる. 本年度は粘度計校正用標準液を対象として実験的および理論的検討を行った.実験では,まず樹脂製容器の外から超音波を投射し容器壁-液体境界からの反射波を観察したが,同波からの粘度の同定は困難であった.これは容器壁が液体に対してきわめて剛であるためと考えられる. そこで液体を一定距離透過した波を用いることとし,実験用にごく短い透過経路をもつ液体容器を作成して透過超音波と粘度の関係を調べた.研究代表者の所属研究室で開発されている瞬時振動数算出法を用いたところ,瞬時振動数は液体の粘度上昇に従い低下することが確認された.この結果は粘度による減衰が高周波数の成分ほど大きくなるために生じる.この性質に基づく粘度の同定を継続して試みている. また,いわゆる粘度がせん断粘度と体積粘度の二つの物性値からなることに着目し,振幅の時間変化と瞬時振動数の時間変化を同じ時系列で評価することで,どちらか一方が既知ならばもう一方も算出できることを明らかにした.従来の回転式粘度計などではせん断粘度しか測定できないため,この結果は体積粘度を簡便に同定する方法の端緒になると期待される. 理論的検討では,粘性を考慮した波動方程式から減衰の周波数依存性を導出し,実験と比較した.平面波を仮定した場合の理論解と実験結果とは傾向は似ているものの定量的には異なった.実験では平面波を仮定した理論解よりもせん断粘度の影響が強く現れたためと予想され,現在その詳細を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,理論面でA. 力学モデルとB. シミュレーションについて,実験面でC. 粘度と非線形変調の量的関係とD. 粘度以外の要素と非線形変調の量的関係,E. 測定が試料に与える影響について検討する.本年度はこのうちA,B,C,Dについて,粘度測定に資する一定の知見を得る計画であった.現状では,それらに対して以下のような進捗がある. AおよびB:一次元集中系モデルを用いて,減衰における体積粘度とせん断粘度の影響を検討した.モデルの基礎支持減衰がせん断粘度と密接に関係していることに着目すると,せん断粘度,体積粘度と瞬時振動数との関係はそれぞれ異なっていると予想される. C:せん断粘度および体積粘度が高いほど瞬時振動数は低下する.それぞれの粘度に基づく減衰の周波数依存性は実験結果から求められたが,超音波を平面波として仮定すると各粘度を独立に求めることは難しいとわかった.しかし,どちらか一方が既知であれば実験結果から他方を同定することが可能なことは示された. D:現在は基礎検討の段階であるため,鉱油由来の粘度計校正用標準液を中心に検討を加えている.これと別の水溶液(砂糖水など)とを比較したところ,せん断粘度が同一であっても液体を透過した超音波は異なる減衰を示した.現在は,この差異を体積粘度の影響とそれ以外の影響とに分けて把握すべく実験を計画している. 以上から、本研究ではせん断粘度と体積粘度という二つの物性値を両方とも求める方法が必要であり,多様な液体をサンプルとして粘度以外の物性の影響を本格的に調べる段階に至っていない.そこで現在は,特にせん断粘度に注目して体積粘度とは独立に観察できる実験条件を集中的に検討している.
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今後の研究の推進方策 |
現在の課題は,液体のせん断粘度と体積粘度の双方が未知である場合に両者を独立に求める手法の開発である.これについて,今後はまずせん断粘度に注目し,せん断粘度による減衰が受信波に現れやすくなる実験条件を工夫する.このような実験条件は探触子から送信された超音波が平面波の仮定からより大きく外れる部分で実現されると考えられる.実験条件の吟味には,実験のほかに当研究室の別の研究で導入した超音波伝播シミュレーション用有限要素解析ソフトも活用していく.また,従来よりやや複雑な実験系になると予想されるため,実験で安定した結果を得るために適当な治具を随時製作して用いる. 粘度以外の物性の影響を調べるにあたっては,上述のシミュレーションソフトで物性値を種々与えて受信波への影響を計算機上で見積もる.また,本年度購入したインキュベータでサンプル液体の温度を適切に与えることができ,同様に本年度購入した回転式粘度計でサンプル液体のせん断粘度を測定できることにより,相異なる様々な物性値をもったサンプルを安定して作成できるようになっている.これらを利用してせん断粘度が同一,または体積粘度が同一なサンプル群を用意し,実験的に他の物性が減衰に与える影響を評価する.これらのほか,当初より今後行う計画であった研究も推進する.具体的には,サーモグラフィを導入して超音波投射によるサンプル液体の温度上昇を評価し,提案手法が対象に影響を及ぼしにくい手法であることを示す.また,液体が流動している場合について実験系を作成して検討する.これまでの知見から,超音波が液体を透過することが測定の必要条件であるため,当初の計画のように一つの探触子で送受信を行うのではなく,管を挟むように二つの探触子を配置すべきであると予想される.
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次年度使用額が生じた理由 |
943299円の次年度使用額が生じた理由は,(1)国際学会旅費が予想より安く済んだこと,(2)サーモグラフィの選定に時間がかかっていることの二つである.特に(2)のサーモグラフィは定価880000円程度の製品を想定していたため,次年度使用額が膨らむ結果となった.
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次年度使用額の使用計画 |
超音波パルスを投射する提案手法が液体の温度に大きな影響を与えないことを示したい.そのため,本年度選定したサーモグラフィを次年度に購入する.また,サーモグラフィ購入後に残った額は実験治具の製作費用に充てる予定である.
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