容器封入後の液体製品や配管内の液体を検査するために,容器壁の外から超音波を投射して液体の粘度を推定する手法の研究,開発を行っている.本年度は実験的検討と合わせて数値シミュレーションおよび解析解の導出を行い,これらを総合して液体のせん断粘度と体積粘度の同定を試みた. 実験では前年度に引き続きせん断粘度の既知な粘度計校正用標準液を主な対象としたほか,グリセリン,ショ糖水溶液からもデータを取得した.いずれの試料を超音波が透過した場合でも,極端に低い,または高い振動数での減衰は信頼性に欠けたため,同一試料に対する複数データのコヒーレンスが一定以上となる振動数帯のデータを理論的検討に用いた. 次に液体を一次元集中系モデルで表現し,質点と基礎をつなぐ減衰要素,質点を結合する減衰要素の2種の減衰を与えることでせん断粘度と体積粘度をそれぞれ反映した波動伝播シミュレーションを行った.これに実験結果を合わせて減衰要素を同定したところ,質点と基礎をつなぐ減衰要素がせん断粘度と強い相関を示した.この減衰要素とせん断粘度の量的関係を求めるには透過経路に関するより詳しい情報が要るものの,実験と一次元波動伝播シミュレーションからでも近似的に液体のせん断粘度を評価できることが示された. これらを踏まえて液体透過中のパルスの圧力分布を仮定し,波動方程式を理論的に解いてせん断粘度と体積粘度の同定を試みた.理論解と実験結果を合わせて粘度を同定したところ,液体の真の粘度が30~1200 mPas程度をとるとき同定結果と真の粘度とが強く相関し,特に300~1200 mPasの範囲では誤差25%以内であった.体積粘度の同定にはなお大きな誤差を伴う可能性があるものの,実用上重要なせん断粘度を容器の外から測定する基礎的な方法論が得られたと考えられる.
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