研究課題/領域番号 |
15K18020
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
七戸 希 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80362953)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高温超電導 / 変圧器 / 交流電源 / 大電流 |
研究実績の概要 |
低炭素社会の実現に貢献できる機器として,さらにはスマートグリッドの主要構成機器として高温超電導電力機器の実用化が期待されている。その機器開発のためには同機器に用いられる高温超電導線の通電特性を設計段階で十分把握しておく必要がある。高温超電導線の臨界電流は市販のものでも液体窒素温度・自己磁場下で1mm2断面の線にて200A以上と非常に大きいため,通電特性の把握には大電流通電可能な電源が必要になる。しかしながら,市販の特に交流電源はサイズ・重量が非常に大きいため,設置場所の制約や設置後の移動の困難さなど利用性においてデメリットが大きい。 そこで,本研究では,単相高温超電導変圧器を用いて,一次側に低電流電源を接続し,二次側に大電流を通電可能な構成の小型・軽量の交流大電流電源の開発を行う。その出力電流は,今後の高温超電導線の発展や複数本束ねたケーブルに通電することを考慮し,1kAを最終目標値としている。また,電源の容量は,一次側に接続する低電流電源の容量を考慮して3kWとする。 平成27年度においては,高温超電導変圧器および冷却容器の設計・作製に取り組み,変圧器においては鉄心量の最小化など,冷却容器においてはサイズの最小化などを考慮して設計および作製を行った。また,作製した変圧器の一次側にスライドトランス,パワーアンプおよびインバータを接続して通電試験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安価で高い臨界電流を持つ市販の高温超電導線であるBi2223線を巻線として,直径の異なる2つのGFRPボビンにソレノイド状に巻くことで一次コイルと二次コイルを作製し,2つのコイルを同軸に組み合わせて鉄心を通すことにより変圧器を作製した。この構成により,巻線に印加される自己磁場を低減し,臨界電流の低下の抑制と交流損失の低減を図った。一次コイルと二次コイルの巻数比は,段階的に電源の特性を把握するために,まずは一次側100V30A,二次側6V500Aとなるようにした。 冷却容器は,鉄心挿入部が貫通する形状の発泡スチロール容器とし,変圧器のコイル部分のみが冷却され,鉄心は室温空間に置かれる構造として,鉄損の抑制と冷却効率の向上を図った。発泡スチロールは強度と断熱性の高い発泡倍率30倍のものを使用した。なお,鉄心には当初,鉄損が小さいアモルファス金属を薄膜・積層化したものを用いる予定であったが,比較のため,まずは電磁鋼板の鉄心にて作製した。アモルファス鉄心については現在実験中であり,平成28年度の課題として引き続き検討を行う。 以上の構成により作製した電源にて,変圧器二次側に定常的に電圧6Vおよび電流500Aを出力可能であることを確認した。一次側に接続する電源(インバータ)も含め,そのサイズは0.02m3,重量は16kgとなり,これらは同容量の市販電源と比較して約1/12(8.3%)である。現在,電流値を1kAに拡張すべく,巻線方法などの検討を行っているが,同程度のサイズと重量で達成できる見込みであり,平成28年度の課題として引き続き検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
アモルファス鉄心を用いた場合の特性把握と出力電流の1kAへの拡張を引き続き行っていく。 また,インバータを用いた通電特性試験において,高調波の影響により,電流歪みや損失の増加がみられたため,その最も効果的な対策について検討を行っていく。そのため,電流の周波数解析,損失の電流・周波数特性,損失の分類などを現在進めており,これらについても引き続き検討を行っていく。 以上により,電流歪みを除去し,損失を低減したうえで出力電流1kAを達成する。本電源を用いて実際に高温超電導線の通電特性を測定し,有用性を実証する。
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備考 |
小出哲之 平成27年度(第66回)電気・情報関連学会中国支部連合大会 奨励賞受賞
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