本研究では、変圧器鉄心の低損失・低騒音化のためのベクトル磁気特性制御技術の効果検証を目的としている。ベクトル磁気特性制御技術とは既存の方向性電磁鋼板表面にレーザーを用いて0.25mm角の形状痕を照射することで、鋼板表面の皮膜を局所的に除去し鋼板内部の磁区構造を変化させ、回転磁束や任意方向交番磁束下の鉄損及び磁気ひずみを低減させる新しい技術である。 最終年度では、ベクトル磁気特性制御材の詳細な磁気特性及び磁気ひずみの測定が完了し、解析に使用するデータベースの構築を行うことができた。また、各種方向性電磁鋼板への本技術の適用を行い、各試料とも鉄損低減を確認した。詳細測定のための80mm角試料だけでなく、環状形方向性電磁鋼板試料に対しても本技術を適用させ、その鉄損低減効果を検証した。この試料は簡易変圧器鉄心と見なすことができ、鋼板内部に様々な方向に磁束が同時に発生する試料である。詳細測定から得られた知見に基づき、本試料の各部分に本技術を適用させ、鉄損低減を確認した。本研究の一部を研究室所属の学生が学会発表を行い、電気学会から優秀論文発表賞を受賞した。学生の研究力向上も本研究の成果である。 研究期間全体を通じて、ベクトル磁気特性制御技術による既存方向性電磁鋼板の鉄損及び磁気ひずみ低減を実測から明らかにし、また変圧器鉄心への適用に際し、注意しなければならない知見を得たことは大きい。また本技術の効果について磁区観察装置を用い、適用後の各種方向性電磁鋼板の磁区構造が微細分化されていることを明らかにした。更に変圧器モデルへの適用効果の検証も実施した。環状形簡易モデルや三相三脚モデルに対して適用させ、前者は平均的な磁気特性測定から、後者は局所ベクトル磁気特性測定の実測からその効果を明らかにした。研究課題はまだ多く残っているが、本研究を通じ本技術の有効性及び適用可能性を示すことができた意義は大きい。
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