研究課題/領域番号 |
15K18038
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤坂 大樹 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80500983)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アモルファス炭素膜 |
研究実績の概要 |
平成27年度は本研究で用いるフィルタードカソーディックアーク法に用いるターゲットの作製に時間を要した.本法では黒鉛系原料ターゲット表面で真空アーク放電を発生させ, 炭素をイオン化する. これら生成イオンを電磁コイルにより炭素 イオンのみ抽出し, 負バイアス電圧を印加した基材に衝突・堆積させてsp3比が約80%のアモルファス炭素膜を形成する. この原料となる黒鉛系原料ターゲットに本研究では炭素の高質量同位体である13Cをターゲットとして用いるが,市販品はないために13C高純度粉体から作成することが必要となる.原料ターゲットとなる成形→焼結→評価の課程のうち,特に焼成過程で大きな課題に直面したが,ターゲットを得ることができる所まで来ている.現在,焼成を更に最適化し,フィルタードカソーディックアーク法による膜の合成に取り掛かっている所である.本フィルタードカソーディックアーク法ではバイアス電圧によって入射粒子の運動エネルギーは調整する. 通常の12Cを原料として用いた場合, 100 eV付近でsp3比が最も高く, 約80%を示す. 更に入射イオンのエネルギーを上昇させると, 先に堆積した炭素との間での熱的作用により黒鉛化してsp2量を増大させて相対的に sp3比を下げてしまう. C13は質量がC12と異なる為,この最適なバイアス電圧が異なることから現在,最適なバイアス電圧を探索している.評価には膜の光学バンドギャップの変化をパラメータとして用い,Etauc≒3.5 eVを目標値として電圧やアーク電流等を調整している所である.また,平成28年度に予定しているドーピングのためのイオンガンシステムの構築も平行して本年行なっており,これにより28年度に予定している素子としての評価が迅速に行なわれるように準備も進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C13の炭素ターゲットの作成工程の一つである焼成条件の探索に時間がかかった為、C13膜自体の合成の進捗がやや遅れている。焼成のめどが立ち、使用設備等は問題なく進捗するものと思われる。また、H28年度に予定していた光励起キャリア生成とドーピングによるキャリア制御のドーピング部分を先行して行なっており、工程どおりに進んでいるわけではなく、2つの順番が逆転してはいるが全体として概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、Si上に重水素化したC13低欠陥アモルファス炭素系膜を形成し、水素, 重水素のダングリングボンド・欠陥終端効率を本Si上に電極を形成してMIS構造を構成する. MIS素子のアモルファス炭素系膜部に現有の波長分光器によって分光した光を照射し, 起電力量の波長依存性を10 K~常温で測定し, アモルファス炭素膜とSi界面での電子障壁状態を評価する.高インピーダンス検出系, 温度制御系より構成されるアモルファス炭素系膜の高インピーダンスに対応できる測定システムを構築し、評価を行う. この電子構造が既知であるSi基板と低欠陥アモルファス炭素膜の接合素子の界面の電子障壁のキャリアの温度依存性と波長依存性からアモルファス炭素膜内に形成される不純物順位のエネルギーと量, 更にはキャリアの光照射によるキャリア生成能を明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年使用予定であった消耗品のSi基板等の製膜に必要な物品について炭素焼成が遅れた為に2015年度の支出額が下がったが、現在、製膜過程を進めており、本年に同基板材料などが必要になる。また、この遅れによる学会等への参加も予定より一回程度少ないためである。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、ターゲットの焼成にめどが立ったため急速に進捗が取れる状況に至っており、Si基板やガス等の使用が急速に伸びてきており、C13膜の合成において特に進捗を取り戻しつつある。また、成果等も出てきていることから2016年度は国際会議への申し込みも既に2件されており、これによる旅費等で使用予定である。
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