本研究は、資源豊富な材料から成り安価かつ高効率な新規薄膜太陽電池の基盤構造として硫化スズ(SnS)/珪化バリウム(BaSi2)ヘテロ接合を提案し、SnS/BaSi2太陽電池の実現とそのデバイス物理の解明を目指して研究を行った。前年度までに、SnS、BaSi2それぞれの成膜プロセスについて検討を行い、簡便な真空蒸着法によりステンレス鋼基板上にクラックフリーBaSi2薄膜を形成できること、BaSi2薄膜の電気抵抗を成膜速度により制御できること、SnS薄膜へのオーミック透明電極としてITO薄膜が利用可能であることなどを明らかにしている。平成28年度は、その結果を踏まえて、SnS/BaSi2ヘテロ接合を作製し評価を行った。しかし、作製したITO/SnS/BaSi2/ステンレス鋼構造は整流性を示さず、太陽電池としては機能しなかった。そこで、その原因を明らかにするために電子顕微鏡観察による試料構造の評価を行ったところ、BaSi2薄膜の表面に酸化層が存在することが分かった。このBaSi2表面酸化層はSnS/BaSi2界面の形成を妨げ、電気的特性に大きな影響を与えていると考えられる。そのため、BaSi2薄膜の酸化抑制と品質向上に取り組んだ。その結果、BaSi2堆積後のポストアニール時間を最適化することにより表面酸化膜厚を最小化できることが分かった。また、X線光電子分光法を用いた表面分析により、表面酸化膜の構成物質も明らかにした。さらに、BaSi2のみを原料とする簡便な二段階蒸着法によりBaSi2成膜後に大気に曝すことなく表面をアモルファスSiで被覆できることが分かった。これにより、BaSi2薄膜の表面酸化を顕著に抑制することに成功した。これらの知見を活用すれば、界面酸化を抑制しSnS/BaSi2ヘテロ接合を形成できると考えられる。
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