研究課題/領域番号 |
15K18042
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石田 暢之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 環境エネルギー材料分門, 主任研究員 (10451444)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ケルビンプローブフォース顕微鏡 / ポテンシャル計測 / ペロブスカイト太陽電池 |
研究実績の概要 |
これまでのペロブスカイト太陽電池に関するデバイス開発はエネルギー変換効率の改善を目的とした現象論的アプローチ(試行錯誤)が主流であった。本研究ではケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を用いたその場静電ポテンシャル計測によりその動作原理の解明を試みる。これにより物理的理解に根ざした最適なデバイス構造を提案することを目的とする。 27年度は、ガラス基板上に作製したペロブスカイト太陽電池を破断し、その断面にてKPFM計測を行った。これにより、p-i-n接合の空間認識やデバイス動作中の電荷蓄積状態、キャリア輸送機構に関する知見を得ることを試みた。まず、破断面にて原子間力顕微鏡(AFM)計測を行い、表面のラフネスを評価した。その結果、単純な破断でも比較的平坦な表面(100 nm以下のラフネス)が得られることが分かった。その後、光照射下でのKPFM計測を行い、提案した手法(暗状態と光照射下でのポテンシャルプロファイルを計測し、その差分を取ることでp-i-n接合の空間認識を行う)を用いてデータの解析を行った。その結果、光照射によりペロブスカイト層と電子輸送層の間でポテンシャルが大きく変化する様子が見られ、電荷分離過程に関する重要な知見が得られた。しかしながら、いくつかの試料において同様の実験を行ったところ、破断の具合によりデータにばらつきがあり、再現性が良くないことが分かった。この課題を解決するために、アルゴンイオンエッチングによる表面平坦化を試みた。平坦化処理によりラフネスを20 nm以下に抑えることができ、また、多層膜の各層をより明瞭にイメージングできることが分かった。しかしながら、平坦化処理中にデバイス性能の劣化や消失が多く見られ、その場KPFM計測を行うためには、プロセスの改善が必要であることが分かった。現在、デバイス性能を損なわずに表面平坦化を行う手法を開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要な課題の一つは、その場静電ポテンシャル計測により、ペロブスカイト太陽電池の動作原理(特に電荷分離の過程)を解明することである。27年度の成果より、ガラス基板の破断による断面ケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)計測および提案したデータ解析の手法を組み合わせることで、p-i-n接合の位置情報に関する知見が得られる事が分かった。現時点では、データの再現性に課題があるが、断面処理(表面平坦化)技術の工夫を行うことで、その改善が期待される。再現性・信頼性の高い実験データが得られれば、ペロブスカイト太陽電池の動作原理解明に資する重要な知見が得られると考えられる。そのため、研究は大旨順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の成果から、清浄かつ平坦な断面を作製する技術の開発が、得られるデータの再現性・信頼性を向上するために必要であることが分かった。そこで28年度は、まずイオンエッチングによる断面作製技術の開発に注力する。現在一番問題となっているのは、イオンエッチング中に生じる、試料断面への金属膜の再堆積である。これは、断面処理の際に使用する金属の遮蔽板が試料と同様にイオンエッチングされることで生じる。再堆積が生じるとデバイスがショートしてしまうため、デバイス動作下でのその場KPFM計測ができない。そこで、再堆積を抑制するためのいくつかの手法を検討する。断面処理技術を確立した後は、当初の計画通り様々な条件下でKPFM計測を行い、ペロブスカイト太陽電池動作原理の解明を目指す。仮に断面処理技術の構築がうまく行かない場合は、単純な破断法を用いた試料作製により多くの実験を行い、統計的なデータ解析を行うことで、データの信頼性を担保する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、27年度は単純な構造を有したペロブスカイト太陽電池の作製に必要な実験系を構築する予定であった。しかし、簡便な作製法を用いたデバイスで評価テスト(光照射下でのケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)計測)を行ったところ、単純な構造のペロブスカイト太陽電池を作製することよりも、まず清浄かつ平坦な断面を作製するための技術開発を行うことが重要であることが分かった。そこで、27年度は断面作製技術およびその場KPFM計測手法に注力し、当初計画していたペロブスカイト太陽電池作製のための実験系の構築とそのための予算執行を28年度に延期することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越しした金額については、27年度に計画していた単純な構造を有したペロブスカイト太陽電池作製のための実験系構築費用として使用する。また、28年度に計上していた予算に関しては計画通り、ケルビンプローブフォース顕微鏡計測のためのプローブ探針などの消耗品費として使用する予定である。
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