研究課題
物の動きや位置関係を把握する空間認識は、自動運転車や自律歩行ロボットを実現する上で必要不可欠である。通常、工学的システムにおいては、画像センサや距離センサの情報を元に空間認識が行われるが、実時間処理のための高速演算には大きな電力消費を伴う。一方生物は、主に視覚情報を頼りに極めてエネルギー効率のよい空間認識を行っている。例えば昆虫や鳥も行っている運動立体視では、単眼から得られる情報を使って対象物の素早い動きを認識し、障害物回避などの視覚運動制御を行っている。この運動立体視による空間認識を集積回路(LSI)で実現することが本研究の目的である。本研究では、ヒトの視覚野における運動立体視の神経回路網モデルの一つである川上・岡本モデルに着目した。本モデルをLSI化する上での大きな課題は、膨大な神経配線の実現と、神経細胞の応答強度の集積におけるゲイン調整である。そこで、1) 仮想配線方式を実現するメモリアーキテクチャの設計、2) 神経細胞の応答強度を集積する多入力アナログ加算器の設計、3) 視野の局所領域の運動(局所運動)を検出するLSIの試作と性能評価、4) 空間認識システムの構築と性能評価、という4つの研究目標を設定した。2年目にあたる平成28年度は、これまで想定していたメモリベースの仮想配線方式を見直し、新たな仮想配線方式を採用した局所運動検出LSIを試作した。これは、配線情報を記述したテーブルをLSI内のオンチップメモリに保存する代わりに、配線情報を回路で逐次計算する方式である。結果、オンチップメモリを排除することで、回路面積を約12分の1に削減することに成功した。また、配線情報を計算する回路が最大限並列動作するように細粒度パイプラインを構築することで、メモリベース方式と比べて約1.7倍の高速化を実現した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、局所運動の検出を行うLSI(平成28年度)とそれらの出力を統合するLSI(平成27年度)を試作した。LSI試作を進める中で神経回路網モデルの処理に適したアーキテクチャ・回路構成を検討し、仮想配線方式の実現方法を根本的に見直すことで、神経回路網モデルの集積度を8倍程度向上させることに成功した。但し、当初の計画で予定していた多入力アナログ加算器の設計に関しては遅れている。
神経回路網モデルの実効性を検証するため、これまでに試作したLSIとその入出力を制御するFPGA、及びカメラを用いた空間認識システムを構築する。また、PC上の仮想環境中に再現された小型飛行機の一人称視点画像の利用を検討する。多入力アナログ加算器の設計については、加算方式そのものの見直しを検討する。具体的には、加算の対象となる神経細胞の応答強度の情報表現を、神経パルスの平均発火率に基づくものから、神経パルスの発火タイミングに基づくものに変更することを検討する。
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