各種無線情報通信機器内の受信側CMOS-LNA回路で現在多用されている空心RFインダクタの巻線間に磁性微粒子を誘電体中に分散させた複合材料を充填させると高Q化になることが既知で、LNAの低損失・高効率化さらには電子機器の省エネ化に繋がる工業的にも重要な知見が得られていた。実用にはより高Qにする必要があり、絶縁体で磁性微粒子を表面修飾し高周波損失を低減させる方法が最適とし、その手法の確立と高Qインダクタの開発およびRF回路適用実験までを本研究の目的とした。 平成27年度には、Fe系磁性微粒子の大気中熱酸化による熱酸化絶縁性膜付絶縁体によるFe磁性微粒子(以下、熱酸化膜付Fe微粒子と記述)を作製し、材料Q値は11.1@1 GHzで当初目標を大幅に上回った。熱酸化膜付Fe微粒子とエポキシ樹脂を用いて複合材料を開発した。またその結果を基に巻線間複合材料装荷RFインダクタをモデリングし電磁界解析したところ、2 GHzでQ値が30を超す空心RFインダクタでは到底到達しないRFインダクタが開発できる可能性が示唆され、試作に着手した。 平成28年度には、試作が完了し、測定したところ約2 GHzでQ値が約32でピークを取った。また、0.4~2.4 [GHz]において複合材料巻線間装荷RFインダクタのQ値は空心RFインダクタのそれよりも約20%高く、前例に無いRFインダクタが開発された。加えて、RF回路の模擬実験として上記インダクタとチップキャパシタで構成されるLC直列共振回路を作製し評価したところ、複合材料巻線間装荷RFインダクタを用いた方が空心RFインダクタを用いた場合に比べて共振時の半値幅が狭くなることを確認し、複合材料の優位性を示すことができた。また本成果から派生したRF薄膜コモンモードフィルタ等の開発にも大きく寄与した。以上の結果により、当初目的を十分達成した。
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