研究課題/領域番号 |
15K18053
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
芹田 和則 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 研究員 (00748014)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 局所発生テラヘルツ / 非線形光学結晶 / 円形微小開孔 / マイクロ流路 / メタアトム |
研究実績の概要 |
微量溶液評価用高感度近接場テラへルツ(THz)センサーでは,下地基板として非線形光学結晶のGaAs110面を利用しており,フェムト秒パルスレーザー光照射による2次の非線形効果(光整流)によって結晶表面に,レーザー光の集光ビームサイズとほぼ同じビームサイズのTHz波が局所的に生成される.この近傍に溶液をセットすることで近接場相互作用を利用した高感度なTHz分光測定を可能とするものである.本年度はTHz波と溶液を効率的に相互作用させることが可能なGaAs表面構造について,電磁界解析と実測の両アプローチから検討を行い,以下の2つの基礎構造を候補として議論を行った.
①円形微小開孔型 GaAs表面上に100~200μmφ,深さ10~30μmの円形微小開孔を有するセンサーの作製を行った.その結果,THz透過スペクトル中の特定の周波数において,開孔構造由来のTHz波透過強度のディップが発現することを確認した.このディップの強度変化を利用することで,微量溶液(~100nL)中の溶質濃度をピコモルオーダーで識別できることが分かった.一方で,溶液滴下時の誤差がその強度変化に大きく影響し,再現性や定量性の点で改善が必要であった. ②単一マイクロ流路型 先の問題点を解決すべく,マイクロ流路による微量溶液フロー型のセンサーについて検討を行った.これは,幅数十μm,長さ数mmの単一流路を結晶表面に作製し,毛細管現象による流路内への溶液の定量的な流入を利用するものである.これにより溶液滴下時の誤差を抑制することができたが,検出感度としては①の場合に及ばないことが分かった.そこで,マイクロ流路周辺にスプリットリング共振器(メタアトム)アレイを作製し,その共振周波数のシフト量で高感度検出ができないか検討を行った.その結果,微量溶液(~100nL)中の溶質濃度を最大58フェムトモルの感度で検出できることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微量溶液評価用高感度近接場テラへルツ(THz)センサーの基礎構造として,センサー下地基板となる非線形光学結晶で生成される局所発生THz波と微量溶液を効率的に相互作用させる単一マイクロ流路構造を提案し,実際に微量溶液の高感度なTHz分光測定が行えていることから順調に研究を推進できていると考えている.溶液使用量のさらなる微量化や検出感度の向上には,今後流路構造の最適化や溶液滴下方法の改善を行っていく必要がある.また,このような局所発生THz波によるメタアトムの近接場励起では,そのユニット数や周期の違いにより感度に大きな差異が生じることが分かった.これは一般的な遠方場THzシステムで生成されるTHz波では観測できない現象であり,局所THz場に関する新しい物理的知見取得や応用利用可能性に期待ができる.本センサー開発においても有用な機能性を引き出す可能性があり,想像以上の成果を得ることができたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
実用的なセンサーに求められる性能としては,微量な溶液を高感度かつ高速に測定可能であることである.用いる溶液量の微量化と測定感度の向上については,メタアトム付流路構造を基盤として,今後最適な流路構造やメタアトム構造の検討を行っていく予定である.一方,テラヘルツ(THz)時間領域分光測定に関して言えば,現在利用している時間遅延機構の場合,十分なSN比のTHz時間波形取得に約1分程度かかっている.そのため,サンプルによっては測定中に経時変化を起こし,測定データへ影響が及んでしまうことが考えられる.そこで,数十ヘルツで動作する高速光遅延機構を導入し,ほぼリアルタイムでの高速THz時間領域分光測定を行えるようなシステム改良も行っていく予定である.以上の点について検討を行っていくとともに,作製したセンサーを利用して,様々な溶液の微量での測定を試みる.具体的には,微量な血液やDNAなどの生体試料を中心に測定を行い,本センサーの有用性について議論を行っていく予定である.
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