研究課題/領域番号 |
15K18057
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
小嶋 崇文 国立天文台, 先端技術センター, 助教 (00617417)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 周波数分波器 / マルチバンド / 広帯域 / 低雑音 / SISミキサ |
研究実績の概要 |
本研究では、天文観測応用などを想定し、周波数軸上の情報を同時にできるだけ広く、高感度にヘテロダイン分光計測するためのマルチバンド型受信機の原理実証を目指している。 H27年度は380-500 GHz帯においてマルチバンド型高感度受信機の概念設計を行った。回路シミュレータを用いて2次元平面回路型の集積回路設計を進め、マルチバンド型受信機システムの動作設計解を見出した。一方、回路シミュレータを用いて設計した集積回路に対して、3次元電磁界解析を適用したころ、平面回路構造を有するフィルタ等の分布定数回路は空間放射が強くなることが判明した。当課題に対しては検討を継続するが、バンド間の干渉が強く懸念されるため、実用を想定するとモジュールパッケージに対して非常に高度な設計を施す必要がある。 そこで、H27年度はマルチバンド型受信機のキーコンポーネントである周波数分波器を、導波管回路を用いて設計・製作・評価した。マルチバンド型受信機で懸念されるバンド間の周波数ギャップによる信号損失を避けるために、ハイブリッドカップル型周波数分波器を採用した。当分波器は、他種の周波数分波器とは異なり、周波数ギャップを非常に小さくできるうえ、いずれのポートから見てもインピーダンス整合が確保されるという特性をもつ。一方、90度ハイブリッドカプラとフィルタが各々のチャネルで2つずつ必要となる。そのため、高い機械加工精度を要求されることが当周波数帯における懸念の1つであったが、製作した当分波器の製作精度は±5um以下を確保していることを確認した。さらに、Sパラメータを評価し、設計に対して周波数ズレが2 GHz程度とシミュレーションと極めてよく一致する結果を得た。したがって、キーコンポーネントである周波数分波器の開発が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルチバンド型受信機の基本的な概念設計を行い、システム設計は順調に進展している。当初想定していた2次元集積型回路による受信モジュールの開発については設計・実装上の課題が生じた。集積化に対しては今後も検討を継続する。一方、本研究の目的であるマルチバンド型受信機の原理実証のためには、RF部分は導波管回路でも問題は生じない。そこで、キーコンポーネントである周波数分波器を直ちに設計・製作し、ほぼ設計通りの性能を実現することができている。そのため、以降の原理実証に見通しは得ており、当研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
製作した導波管型周波数分波器の設計・評価結果は国際会議において発表するとともに、論文を投稿する予定である。また、当コンセプトを広く周知するため、応用・実用先を想定した場での発表や議論も継続する予定である。また、開発した周波数分波器を用いて複数バンドが動作できるような評価系・部品の整備を進め、マルチバンド型受信機の原理実証を目指す。受信機の雑音温度や利得平坦性、チャネル間の干渉などを評価し、マルチバンド型受信機実現に向けて実用を想定した課題抽出を行い、以後の開発にフィードバックする。また、個々のチャネルの周波数帯域をカバーできるような広帯域IF特性を有するSISミキサの回路を検討し、実現上の課題を抽出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
導波管型周波数分波器の納品が3月初旬に納品となったため、次年度使用額として計上されているが、すでに当分波器の評価実験は完了しており、研究はおおむね順調に進展している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、H27年度に製作した導波管型周波数分波器の製作費用に使用する。 H28年度分に関しては、開発の成果を国際会議にて発表する際の旅費等に使用する。また、直線導波管および共振器を製作し、当周波数帯における導波管回路のモデリングを行う。当結果を用いてすでに評価済みの周波数分波器の特性を考察し、論文として投稿する予定である。また、マルチバンド型受信機の原理実証を目的として、当分波器を用いるとともに複数バンドのSIS受信機を動作させるための局部発信電力入力用の導波管など評価系の整備に使用することを計画している。
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