研究課題/領域番号 |
15K18058
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小松 克伊 東京工業大学, フロンティア材料研究所, 産学官連携研究員 (60748002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 有機物 / スピン / バレー流 / バレーホール効果 / ポルフィリン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は有機材料をグラフェンをはじめとする二次元原子膜と複合させることで、有機物および二次元原子膜の各々が持たない特性を合わせることで、新しい機能を発現させ、二次元原子膜-有機化合物複合材料による新機能スピンデバイスの開発を目指すものである。この研究の遂行には、清浄なグラフェンを作製することが必須となる。当該年度では、この実現のために、まず二次元原子膜同士を張り合わせることを可能にする、二次元原子膜転写装置の構築を行った。これにより、グラフェンと六方晶窒化ホウ素を張り合わせた試料において、250,000cm^2/Vsものキャリア移動度を達成し(シリコン基板上グラフェンでは1,000~10,000cm^2/Vs程度)、さらに、過去に観測された10倍以上の巨大なバレーホール効果が生じることを発見した。バレーとは、グラフェンや二次元原子膜の特殊な六方格子結晶構造に起因し、スピンと似た性質を持つため擬スピンと呼ばれ、結晶の並進対称性が破れている場合に生じる。最近このバレーを利用したバレートロニクスを目指した研究が盛んになってきており、今回の結果は今まで小さいために観測が難しかったバレー流が、バリスティック伝導領域では非常に大きく観測されることを示したことで、今後のバレー流の理解に重要な結果であるといえる。また、この結果により、非常に伝導特性の高いグラフェンを得ることができたと言え、今後の有機材料との複合においてもその高い伝導特性を利用することができることが示された。今後はこの高いクオリティを持つグラフェンの磁気センサーとしての性質をまず調べ、さらに有機物と複合させ、そのスピンを利用した新しいスピンデバイスへの応用を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、目標遂行に必須な高い伝導特性を持つグラフェンを実現するための、二次元原子膜転写装置の構築を行い、非常に高い伝導特性を実現した。この特性を調べている際に、ゼロ磁場中において非常に大きな非局所抵抗が観測された。これはスピンの非局所抵抗と同様の現象であるが、ゼロ磁場中のバレー分極に起因したバレーホール効果でることがわかった。今回観測されたバレーホール抵抗は、最近単層グラフェンで報告された値よりも10倍以上も大きく、通常の抵抗により隠されてしまっていたバレー流の直接観測に成功したといえる。当該年度では、グラフェンの積層構造作製による高い移動度の達成が主な目標であったが、それに加え、大きなバレーホール効果の観測にも成功し、これは将来のバレートロニクスに向けた、バレー流の解明に重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、グラフェンの磁気センサーとしての性質を調べる準備および、有機物とグラフェンを複合する準備を行っている。また、バレー流の研究もさらに進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)が生じたのは翌年度分として二次元原子膜と複合させる有機物の購入等に当使用したいため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金と合わせ、二次元原子膜と複合させる有機物を購入する。
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