研究課題/領域番号 |
15K18059
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
林 宗澤 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 特別研究員 (40585155)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子カスケードレーザー / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
テラヘルツ量子カスケードレーザ(THz QCLs)はワットクラスの高出力、連続動作、狭線幅などの特徴を有する小型の半導体テラヘルツ光源として、分光、リアルタイムイメージング、ローカル超高速大容量無線通信など幅広い産業への応用が期待されている。しかしながらその最高動作温度は199.5 K (@3.2 THz)と低く室温での動作にはまだ至っていない。本研究では、量子カスケード(QC)活性層に、緻密で理想的な波動関数設計を可能にするモジュレーションバリア構造を導入することによって、発振下位準位へのリーク電子注入や熱励起LOフォノン散乱を大幅に抑制することで、これまで困難であったTHz QCLsの室温動作を実現すること目的とする。 モジュレーション法を用いたAl1-xGaxAs/Al1-yGayAs系THz QCLsの作製を行う。初めにこれまで一般的に用いられてきた3量子井戸型共鳴トンネル注入機構QC構造に対してモジュレーション法を適用する。発光層には低バリア層を、引き抜き/注入層にはエクステンションバリア層を挿入することで、効率的な電子注入と電子引き抜き、高い発光再結合確率、リーク電流の低減を実現し、THz QCLsの高温動作化を図る。次に、上記量子構造をベースにして”高LOフォノンエネルギー増加法”を適用する。この方法を適用することで、熱励起LOフォノン散乱及びサーマルバックフィリングを抑制しながら効果的に温度特性の向上を図り、電子冷却温度(230K)以上で動作可能なTHz QCLsを実現する。さらに、モジュレーション法を用いた“間接注入機構で対角遷移発光機構”のQC構造を作製する。電子注入効率と選択性を改善することで、THz QCLsの室温動作化を実現する計画である。 初年度は違い高さのバリア層を利用して、こういうモジュレーション構造のTHz QCLsの発振を成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は違い高さのバリア層を利用して、こういうモジュレーション構造のTHz QCLsの発振を世界中に初めて成功した。高温動作は最初の112Kから修正後の構造の145K実現しました。また予想通りの電子冷却動作温度以上更新していませんですが、こういう構造の基本設計方向と特性に目処が立った。発光層中にあるAlGaAs障壁層のエネルギー準位を他の障壁層のそれより低く設計することで、振動子強度の大きさを保ちながら界面粗さ散乱強度を減少させることが期待できる。そのため、モジュレーションのないこれまでのQC活性層に比べ、より大きな利得を得ることが期待できる。従って発光層バリアの最適化を行うことでTHz QCLsの温度特性の向上を図る。同じ高さのバリア層と井戸層を用い膜厚のみを調整していたため、一部の問題が改善したと同時に、他の部分が悪化するケースが多くある。例えば発光準位の重なりを増やした時、電子注入の選択性が悪くなるなど、同時に改善することは難しい。今後は本研究提案した“モジュレーション活性層”の設計に用いて、バリア層と井戸層の高さを一つのパラメータとして適切な部分の厚さと組成をより自由に調整できる。この後実施する間接注入型THz QCLsの設計に進んで行く予定しております。 だか初年度後半から別に分担したTHz QCLsの液体窒素温度動作の高出力化と連続動作化の割合が大きくなりました。THz QCLsの高温動作について、今年度は研究テー研究時間分配によって少々遅れる可能性を懸念する。
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今後の研究の推進方策 |
初めてのモジュレーション構造THz QCLsの発振を実現した今、今後の方針は計画通り ●モジュレーション法を用いた高Al組成共鳴トンネル注入機構Al1-xGaxAs/Al1-yGayAs THz QCLsの高温動作の実現 上述したモジュレーション法を用いた3量子井戸型共鳴トンネル注入機構QCL構造に、”高LOフォノンエネルギー増加法”を適用する。高LOフォノンエネルギー増加法は、Al1-xGaxAs/Al1-yGayAs系QC構造のAl組成を増加させることによって、全体の等価的なLOフォノンエネルギーを増大させて熱励起LOフォノン散乱とサーマルバックフィリングの効果を抑制させる方法である。熱励起LOフォノン散乱とサーマルバックフィリングを抑制することで光利得を大きくすることができるため、THz QCLsの動作温度の向上につながる。しかしながら、非常に高いAl組成になるに従い、発光層での界面粗さ散乱の大きさが無視できなくなり、却って光利得が減少してしまい、熱励起LOフォノン散乱を低減した効果が得られなくなる。そこで、発光層においてモジュレーション法を適用し、発光層中にある障壁層のAl組成を他の部分より意図的に小さく設計することで、光利得の低減に繋がる界面粗さ散乱の影響を排除する。このモジュレーション構造を最適化することで、THz QCLsの高温動作を実現する。 ●モジュレーション法を用いた高Al組成間接注入型Al1-xGaxAs/Al1-yGayAs THz QCLsの実現 “間接注入機構で対角遷移発光機構の構造”において、モジュレーション構造を適用する。これを適切に行うことで、間接注入機構のおける所望の準位への電子注入効率と選択性を改善することができる。また発光機構の対角遷移割合も大きくすることができ電子&電子散乱確率を低減させることができるため、THz QCLsの高温化が期待できる。
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