研究課題/領域番号 |
15K18065
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
井田 悠太 山口大学, 創成科学研究科, 助教 (20711229)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 無線通信方式 / OFDM / リレー伝送 / チャネル推定 |
研究実績の概要 |
平成28年度は前年度に作成した方法を拡張し,中継局を複数回経由するマルチホップ環境におけるAF(Amplify-and-Forward)リレー伝送の直交周波数分割多重(OFDM: Orthogonal frequency division multiplexing)について研究を行った.
リレー伝送はスモールセル環境下での遠距離かつ高品質な通信システムを実現するのに有効な技術として知られている.また,リレー伝送は中継法に振幅のみを正規化するAF 法を用いることでシステムの簡素化及び低電力化を実現できる.加えて,中継局を複数回経由するマルチホップに拡張することで,更なる通信ネットワーク網の拡大を実現できる.一方で,無線通信では,経路(チャネル)の状態を推定する必要があり,AF法は送信局-中継局(SR: Source to relay)間と中継局-受信局(RD: Relay to destination)間のチャネル状態を受信局で同時に推定する.従来の方法はチャネルを推定する複数のパイロット信号を用いることでチャネル推定の精度を向上させるが,通信速度は劣化する.そこで,本研究はチャネル推定の精度と通信速度を同時に向上させる方法を考える.
平成27年度では,シングルホップ環境のAFリレー伝送における時間周波数補間(TFI: Time frequency interferometory)法を用いたチャネル推定を提案し,外部に向けても公表した.TFI法は1と0を組み合わせることで,パイロット信号は従来のパイロット信号と比較し信号数を半分以下に軽減し,さらに時間窓を利用した平均化により,チャネル推定精度を向上できる.平成28年度は低電力かつ通信ネットワーク網の拡大を実現できるマルチホップ環境におけるAFリレー伝送に適応できるTFI法を作成し,その性能評価を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,平成28年度までにTFI法を用いたマルチホップ環境のAFリレー伝送におけるチャネル推定の実現を予定していた.しかしながら,AFリレー伝送では,中継局を経由した際に生じる複数個のチャネルが重なることで干渉が起こることが分かった.この干渉は,平成27年度に作成した中継局を1度のみ経由するシングルホップ環境においては時間窓を用いた平均化を行うことで軽減できていた.しかしながら,中継局を2度以上経由するマルチホップ環境では,チャネル重複による干渉がより大きくなるため,時間窓による平均化のみの処理では干渉軽減が十分ではないことがコンピュータシミュレーションによる評価から判明した.
そこで,上記干渉の問題を解決するために,これまでに評価したTFI法と複素信号を組み合わせた新たな方法を提案し,コンピュータシミュレーションを用いて評価を行った.その結果は,マルチホップ環境において従来想定していた方法よりも干渉の軽減を実現できることが判明した.この方法の詳しい内容については,学会や学術論文等において発表を行っていないため,現時点での記述は差し控えたい.また,平成29年度の研究で予定しているソフトウェア無線を用いた実験の準備も平行して行った.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の始めは,平成28年度に作成したマルチホップ環境におけるAFリレー伝送について,学会や学術論文等を通して外部へ向け公表する.加えて,マルチホップ環境で生じる干渉の更なる軽減が可能であるかを考察したい.アプローチとしては,「1. 送信側で新たなパイロット信号の作成」,「2. 受信側で等化器の精度を上げる」等が考えられる.これらの評価はコンピュータシミュレーションを用いて行う.
また,ソフトウェア無線を用いた実験も平行して行う.始めは,中継局を使用しない送信局と受信局のみのシステムについて試作を行う.この際,パイロット信号は平成27年度と平成28年度に作成したものを組み込む.こちらのシステムが正常に動くことを確認できた後,リレー伝送の環境を構築しこれまでの方法を評価する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,平成28年度迄の研究成果を発表するための学会旅費とそれに関わる諸経費,学術論文誌への投稿費等での使用を予定していた.しかしながら,「現在までの進捗状況」で述べた様な問題が発覚したため,平成28年度での研究は外部発表を行う過程まで進まなかったので,旅費等の諸経費が余る結果となった.
|
次年度使用額の使用計画 |
「現在までの進捗状況」と「今後の研究の推進方策等」で述べた様に,上記問題を解決するための方法を提案し,そして評価した.この方法は,まだ学会や学術論文誌等での外部発表を行っていないため,これらの経費として使用する.
|