研究課題/領域番号 |
15K18077
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
阪本 卓也 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (30432412)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 計測工学 / アルゴリズム / レーダ / イメージング |
研究実績の概要 |
平成29年度には、平成27年度および28年度にそれぞれ開発した人体の運動解析手法およびイメージング手法により得られた運動・姿勢の情報を統合し、機械学習により運動識別する手法を開発した。開発手法で用いる機械学習アルゴリズムとして、画像処理分野で広く用いられる畳み込みニューラルネットワークを採用した。機械学習アルゴリズムをレーダデータから生成される時間周波数分布を表すデータ列へ適用し、人体の行動を自動識別する信号処理法を開発した。開発手法の性能を評価するため、実験参加者に指示どおり繰り返し行動させ、超広帯域レーダによる反射波の測定を行った。今回の測定で想定した行動は3種類とした。様々な姿勢や運動方向へ行動する被験者からの反射波を繰り返し測定し、レーダデータに行動種別のラベル付けを行ったレーダ信号データベースを構築した。機械学習へ入力するデータ量を削減するため、ドップラー偏移の時間変動特徴量を抽出する手法を開発した。提案する特徴量のデータを機械学習の入力として用いることで、比較的少数のニューロンで構成される畳み込みニューラルネットワークにより効率的に識別を行うことができることを確認した。今回の測定データを用いた評価により3種類の行動を98%以上の高精度で識別できることを示した。この結果により、研究計画に記載のレーダ信号および機械学習による運動識別技術が実現できたことが分かる。ただし、研究課題の最終目標である異常検出技術の実現のためには、より多くの運動に対応した測定を行い、性能評価をすることが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標は、対象者の容態の急変や転倒などの人体の異常をレーダにより自動検出する技術を開発することである。対象目標を人体に特化させ、人体の形状・運動の数値モデルを用いた技術を開発し、少数アンテナのみを用いた簡易な装置により行動の異常検知を行うことを目指している。この目標を達成するためには人体の(1)運動・(2)姿勢の高精度推定技術、さらに(3)機械学習による異常検出技術を開発する必要がある。平成27年度および28年度にはそれぞれ(1)と(2)の開発を完了している。これらに続いて平成29年度には(3)に関する機械学習による行動識別技術を実現した。平成29年度に識別技術の評価に用いた行動種別は歩行・走行・跳躍の3種類のみであり、(3)で目標とした異常検出のためにはさらに多くの行動パターンに対するデータ測定と評価を進めてゆく必要がある。ただし、平成29年度までに異常検出技術の基礎となる運動の自動識別技術の開発は済んでおり、研究全体の進捗としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の研究計画に記載の3種類の要素技術の開発はそれぞれ完了している。最終年度となる平成30年度には、これらの要素技術を組み合わせて人体の異常検出技術を完成させ、最終目標を達成する。このためには、異常検出に必要となる多くの行動パターンに対応するレーダ測定を実施し、機械学習アルゴリズムの学習に用いる。さらに、システム全体の性能を実際のデータで評価することにより、各手法の改良も進めてゆく。異常検出精度を向上させるために、対象者の運動・姿勢のパラメータのうちどれが支配的なのかを定量評価するとともにニューラルネットワークの規模やトポロジーも含めて全体の性能を向上させるための改良を進める。最後に、様々な運動種別に対応したデータを用いたクロスバリデーションにより、開発システムの性能を詳細に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度には、研究計画に記載された人体の異常検出技術開発の要素技術である行動識別技術の開発を実施した。一方で、最終目標である異常検出技術の開発に必要な異常行動に対応するレーダ測定は実施しなかった。この理由は、異常ではない通常の行動であっても、高精度に自動識別するためにはデータから適切な特徴量を抽出する必要があり、この手法開発には当初の予想よりも時間がかかったためである。そのため、平成29年度には人体の異常に対応するデータ取得に必要な経費を執行せず、次年度使用額が生じた。平成30年度には最終目標の達成に向けて平成29年度に実施しなかった測定を実施する予定であり、そのために同額を使用する計画である。
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