本研究課題である,コウモリの長距離音響ナビゲーションアルゴリズムの解明のために,2017年度において,①GPSデータロガーと,②2016年度に開発した音響GPSイベントロガーをそれぞれ用いてコウモリの長距離軌道データの計測および蓄積と分析を行い,学会(アメリカ音響学会,日本生態学会等)において発表を行った. ①においては,福井県にてキクガシラコウモリに16個のGPSデータロガーを装着し,7つ回収した内の6つのロガーからデータを回収することに成功した.この回収データから,コウモリがねぐらの近くを流れる川沿いを飛行し,途中川沿いの木々に停滞を繰り返していることが分かった.また,二日連続で同じ場所(川沿いの木々)に直線的に移動して停滞する様子も見られたことから,コウモリは空間記憶に基づいて採餌場所へ移動し,木々に留まって獲物を探索している可能性が示唆された.そこで,GPSデータロガーで特定されたこれらの地点にマイクロホンアレイシステムを構築することで,コウモリの獲物に対する音響センシングについての検討を試みた.結果,コウモリの停滞時と飛行時における超音波パルスの録音に成功し,獲物の動きとはばたきによるエコーの周波数変調の検知を行っている可能性が示唆された.②においては,同地点にて4個の音響GPSイベントロガーを装着し2個の回収に成功したが,マイク部の損傷によりデータを回収することができなかった.これを受けて,マイク部をMEMSマイクロホンに変更して特性の評価を行った. また,アブラコウモリがターゲットである獲物を見失わずに捕獲するための超音波ビームコントロールの戦略を,当該マイクロホンアレイシステムを用いて明らかにした成果がアメリカ音響学会誌に掲載された.
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