本年度は,前年度に構築した面放射方式によるテラヘルツ波の高出力発生・高感度検出の実験系において,周波数領域分光への応用を目指した分光分析システム化に取り組んだ.特に高感度テラヘルツ波検出系の高性能化を目的とし,電子デバイスである共鳴トンネルダイオードからの連続波テラヘルツ波に対して非線形波長変換による高感度検出を行った.共鳴トンネルダイオードは電源供給のみで動作する小型テラヘルツ波光源動作であるため,実用的な分光分析システム開発の観点から有利である.実験の結果,発振周波数0.58 THz,0.78 THz,および1.14 THzの共鳴トンネルダイオードからの連続波かつマイクロワットレベルのテラヘルツ波出力の非線形波長変換を実現し,周波数1.14 THzのとき最小検出可能パワーとして約5 nWの高感度検出を室温で達成した.実験に用いた励起光のパルス幅(0.31 ns)を考慮すると,実際に波長変換に寄与したテラヘルツ波のフォトン数は約2700個に相当する.また,MgO:LiNbO3結晶のノンコリニア位相整合条件を利用することで,周波数の異なる共鳴トンネルダイオードとテラヘルツ波パラメトリック発生器からの複数周波数のテラヘルツ波の同時検出を行い,光源の周波数を切り替えることなく差分イメージが取得できることを実証した.これらの成果は,原著論文にまとめて発表した.本研究で用いた実験装置はすべて室温で動作するため,様々な応用分野で本成果の利用が期待される.
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