研究課題/領域番号 |
15K18080
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
時実 悠 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 基礎科学特別研究員 (80648931)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 周波数可変サブテラヘルツ光源 / 差周波発生 / 光パラメトリック発生 / DAST結晶 / ウォークオフ効果 / 非同軸位相整合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はサブテラヘルツ波を用いて光ホール効果を顕在化し、光ホール効果を直接観測することである。高出力な周波数可変サブテラヘルツ波光源を独自に開発し、これを用いて光ホール効果を観測する計画である。 平成27年度は周波数可変なサブテラヘルツ波光源を開発した。差周波発生によるサブテラヘルツ波発生には近赤外波長可変二波長光源が必要となる。このため1μm帯と1.3μ帯でそれぞれ二波長光源を開発した。具体的には光注入型光パラメトリック発生を用いて波長可変二波長光源を開発した。光パラメトリック発生においては非線形結晶のウォークオフ効果によって高出力発生が妨げられる事を明らかにし、非同軸位相整合を用いた独自の方法でこの問題を解消した。これにより波長可変二波長光の出力が最適化された。以上によりサブmJの出力を持つ近赤外波長可変二波長光源を1μm帯と1.3μm帯でそれぞれ開発した。 次に、開発した1.3μm帯二波長光源によってDAST結晶を励起し、周波数可変サブテラヘルツ波発生を行った。これにより0.3THzから4THzの広帯域に周波数可変なサブテラヘルツ波出力を得た。サブテラヘルツ帯においては0.6THzで最大出力80pJの高出力を得た。また出力の帯域幅を観測し狭帯域性を確認した。以上によって広帯域に周波数可変な高出力サブテラヘルツ波光源の開発に成功した。平成28年度は開発したサブテラヘルツ光源を用いて光ホール効果の直接観測を行う。本研究で開発した近赤外波長可変二波長光源および周波数可変サブテラヘルツ波光源は本研究の目的にとどまらず広い分野において利用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画はおおむね順調に進展している。平成27年度はサブテラヘルツ波励起の為の波長可変二波長光源を独自に開発し、これを用いたサブテラヘルツ波発生を実現した。 具体的には光注入型光パラメトリック発生器を用いて1μm帯と1.3μm帯で二波長光源を別々に開発した。当初同軸位相整合によって二波長光発生を試みたが出力が十分でなかったため、実験およびシミュレーションによって原因を究明した。その結果光パラメトリック発生器に用いたBBO結晶のウォークオフ効果によって、励起光と発生光の重なりが十分に取れず出力が制限されてることが分かった。そこで非同軸位相整合を用いた方法でウォークオフした励起光と発生光の進行方向を一致させた。この結果1μm帯1.3μm帯いずれの場合も出力とスペクトル品質の向上を確認した。 次にこの光源の出力をDAST結晶に入射し周波数可変サブテラヘルツ波発生を行った。DAST結晶における差周波発生を用いたサブテラヘルツ波発生には1μm帯の二波長光励起が適する。この為1μm帯の二波長光を用いてDAST結晶を励起したが信号が観測されなかった。励起光の1μm帯二波長光が非同軸であるため、DAST結晶励起における同軸位相整合を満たさないためと考えられる。そこで並行して開発した1.3μm帯二波長光源を用いた。この光源は二波長光を同軸に発生可能な光源である。この光源によりDAST結晶を励起し0.3THzから4THzの広帯域で周波数可変なサブテラヘルツ波発生に成功した。またサブテラヘルツ帯において最大出力80pJを得た。掃引型エタロンにより出力周波数と帯域幅を測定し、0.4THzにおいて帯域幅17GHz以下の狭帯域性を確認した。以上により周波数可変サブテラヘルツ波光源の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は開発したサブテラヘルツ波光源の最適化および検証を行う。また、開発したサブテラヘルツ波光源を用いて光ホール効果の直接観測を行う。 サブテラヘルツ波光源の最適化はDAST結晶励起における位相整合条件の最適化によって行う。平成27年度の研究によって、DAST結晶からのテラヘルツ波発生には、励起光の二波長光の同軸性が重要である事が明らかになった。そのため平成27年度に開発した1μm帯二波長光源の改良を行う予定である。二波長光が同軸の1μm帯二波長光源を開発するために、光パラメトリック発生する二波長光のうち一波長と、光パラメトリック発生器の励起に利用する1.064μmの基本波を用いて、二波長光が同軸となる光源を構築する。開発した二波長光源を用いればDAST結晶励起において適切な波長で同軸位相整合が満たされ、高出力なサブテラヘルツ波発生が実現すると期待される。サブテラヘルツ波出力の検証はテラヘルツカメラによってビーム形状を観測しM2測定をすることで行う。サブテラヘルツ波のビーム品質向上のため、近赤外励起光源におけるビーム品質の最適化を行う。以上により最適化されたサブテラヘルツ波光源を用いて、光ホール効果の直接観測を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は予定されていた光増幅器の購入を見送った事と消耗品の購入量が計画と異なったことが差額の理由である。計画ではサブテラヘルツ波発生において励起光源の出力が十分でないことを想定し光増幅器の購入を予定していた。しかし既存の装置を用いて構築した励起光源を用いてサブテラヘルツ波発生が観測されたため、光増幅器の購入を見送った。また光学部品および非線形結晶の購入量及び金額が予定とは異なった。実験で必要となる消耗品の量が予想と異なったためである。以上の理由により差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は前年度に開発したサブテラヘルツ光源の最適化及びそれを用いた光ホール効果の観測を行う。これらの実験においては低温冷却した装置が必要とされ、その寒剤が必要とある。前年度の差額を寒剤の購入に充てる。
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