研究課題/領域番号 |
15K18116
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
崔 瑛 名城大学, 理工学部, 准教授 (60583797)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空洞 / ゆるみ領域 / 浸透 / 劣化 / 樋門 |
研究実績の概要 |
H28年度は,ゆるみ・空洞など劣化領域の生成・発達のメカニズムを明確にし,劣化領域を考慮した河川堤防の浸透安全性の評価方法を提案するため,以下に示す追加の模型実験と数値解析を行った。 ① 水位の繰返し変動を模擬した二次元繰返し浸透模型実験では,樋門周辺地盤に発生する間隙水圧の変動の計測に成功し,既往の研究において目視の情報により推察した劣化領域の発生メカニズムに対し,土質・水理学的な根拠を得ることができた。具体的な成果として実験結果より,劣化領域は水位の繰返し変動によって次のように発生・進展していくことが分かった。給水時,地盤内に水が浸透するとともに空洞周辺が飽和状態となり,飽和した空洞周囲の土はサクションの消失によって不安定になり,一部の土粒子が水中に落下し,空洞が拡大される。排水時は,水位低下に伴って下向きに作用する浸透力によって,土粒子が下部空洞に向かって下方に移動し,下部空洞から排出される。また,空洞がある程度進展すると,空洞上部の地盤が不安定となり,ひび割れの発生や,徐々に崩落するなどの現象が見られた。 ② 二次元繰返し浸透模型実験を対象とする数値解析では,水位の繰返し変動による間隙水圧や浸透力の変化をある程度再現することはできたものの,地盤中に発生する空気圧の評価や,地盤の不飽和浸透特性のモデル化など様々な課題も見られた。 ③ ゆるみ領域・空洞を再現した堤防の浸透模型実験では,樋門周辺地盤に様々な寸法を有する劣化領域を生成させた後,洪水時の高水頭差を作用させ,樋門周辺地盤の挙動を観察した。その結果,初期ゆるみ領域が広いほど,その後の高水頭の作用による被害が大きく,特に初期ゆるみが樋門より高い位置まで進んだ場合は,その後続の一回目の洪水によって,空洞・ゆるみ領域が地表面近くまで急激に拡大し,堤防の安全性に大きい影響を及ぼすため,至急補修が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由により,概ね当初の計画どおりに進展していると判断する。 ① 研究の進捗状況について:申請時に予定していた,ゆるみ・空洞の生成・発達のメカニズムを解明するための二次元および三次元模型実験は予定どおり実施しており,十分なデータを収集できている。特に,計測が非常に難しい樋門周辺地盤の間隙水圧の変動も計測でき,劣化領域の発生メカニズムの裏付けだけでなく,数値解析手法の検証のためのデータを蓄積することができた。さらに,様々な劣化領域の初期寸法が豪雨時における堤防の安定性に及ぼす影響についても検討し,劣化領域に応じた危険度の判定方法を提案するためのデータを蓄積できた。一方,浸透流解析においては,地盤中に発生する空気圧の評価や,地盤の不飽和浸透特性のモデル化など様々な課題も見られたものの,繰返し浸透に伴う地盤の力学挙動の変化は捉えており,今後の改善点も見えてきている。 ② 研究成果の発進状況について:研究成果は直ちに地盤工学会学術講演会や土木学会年次大会,中部地盤工学シンポジウムに投稿できている。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は,引き続き,模型実験を対象とする数値解析を行い,実験で計測できた間隙水圧との比較検討により数値解析手法の改良を行う。さらに,収集できた現場状況を取り入れた数値解析を行い,実施工条件下でのゆるみ領域・空洞の発生時における周辺地盤・樋門の力学挙動を把握し,さらにこれら劣化領域が堤防の浸透安全性に及ぼす影響について検討する。 最終成果としては,予定どおり今までの模型実験,数値解析,現場データの収集分析で得られた知見をまとめ,ゆるみ領域・空洞の影響を考慮した堤防の危険度評価方法を提案する予定である。
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