本研究では,ケーソン防波堤の越流洗掘型津波被災過程の数値シミュレーションを実施するためのモデル開発を行った. H27年度においては,粒子法をベースとして,砂地盤やマウンドを弾塑性体として扱うモデルを開発し,基礎的なシミュレーションを行うことで,実現象に対する再現性を検証した. H28年度では,このモデルを用いて,津波作用時のケーソン防波堤の越流洗掘破壊過程のシミュレーションを実施した.ケーソン天端を乗り越えた津波によって防波堤背後のマウンド・砂地盤で洗掘が発生し,徐々に洗掘孔が大きくなるに従って,ケーソンを支えている支持力が失われ,最終的にケーソンが洗掘孔に落下する様子が再現された.ここで重要であるのは,ケーソンの支持力を弾塑性計算に基づいて解いた地盤内応力によって与え,一方で,砂地盤自身も応力によって大きく変形することをモデル化した点である.これまでの研究では,応力による地盤変形計算なしにケーソンの移動を解くか,あるいは,応力計算はしても地盤変形やケーソンの移動はほんのわずかしか許容しないというシミュレーションしか行われてこなかった.したがって,ケーソンの移動開始時刻や移動過程に関しては,予測精度が悪いか,不可能であった.本研究では,このような既往の研究から明確な進歩が見られ,より正確にケーソンの移動を予測することができるようになったことから,近年注目されている防波堤の「粘り強さ」の評価に有用なモデルが開発されたと言える.この点で本研究の意義は非常に大きい. 本研究で開発したモデルは,鉛直断面二次元モデルである.したがって,三次元的な形状や流れ構造には対応していない.今後は,モデルを三次元に拡張し,より一般的な条件にも対応が可能なモデルへと昇華させていく必要がある.
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