研究課題/領域番号 |
15K18128
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小槻 峻司 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 特別研究員 (90729229)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | データ同化 / 作物収量推定 / 衛星観測 / 陸面過程モデル / パラメータ推定 |
研究実績の概要 |
本研究は、アンサンブルデータ同化によってモデル計算と衛星観測を双利用した作物生育モニタリング、及び、力学的な広域作物収量予測が可能なシステム開発を目的とする。モデル計算・衛星データ解析による作物生育モニタリング手法を相補的に併用し、両手法の長所を利用できる点に大きな特徴がある。平成28年度の成果は以下の通りである。 (1) データ同化システムの安定化手法開発: 本研究でデータ同化に用いる EnKFには、必須な技術として共分散膨張があり、そのパラメータを適切に設定することが重要である。今年度は、新しい適応型共分散緩和手法の定式化・テスト実験を行った。この適応型共分散緩和手法により、システムの安定化と精度向上の双方を達成した。この成果は、英国王立気象学会の国際誌への採択が2017年4月に決定しており、次年度の成果として報告する予定である。 (2) パラメータ推定アルゴリズムの開発: 一般にデータ同化の行う状態推定に加えて、モデルパラメータをアンサンブルデータ同化により推定する手法を開発した。状態推定に用いるEnKFをベースにして、アンサンブルベースのパラメータ推定アルゴリズムを開発した。テスト実験として、全球大気モデルのパラメータを推定したところ、狙い通りに降水予報スコアを改善させられることを実証した。次年度に成果をまとめて論文として発表する予定である。 (3) 関連研究: 当初計画では、予測計算に気象庁のアンサンブル予報データを利用する方針であったが、気象業務支援センターを介してのデータ購入が非常に高価であることが分かり、理化学研究所で開発されている全球大気データ同化システムNICAM-LETKFの予測結果を用いることにした。今年度は、全球降水マップGSMaPを用いてNICAM-LETKFによる天気予報を改善し、国際誌に発表した(Kotsuki et al. 2017, JGR)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、以下3点の研究開発を計画している。(1) 統合陸面過程モデルへのデータ同化アルゴリズムの実装、(2) 作物生育モデルのパラメータ推定と検証、(3) モニタリング及び将来予測計算の実施。総じて、概ね順調に推移している。 (1) 統合陸面過程モデルへのデータ同化アルゴリズムの実装 (100%完了): 昨年度に開発済みであり、その良好な動作を実証している。 (2) 作物生育モデルのパラメータ推定と検証 (50%完了): 今年度、パラメータ推定アルゴリズムを開発し、それが良好に動作することを実証した。このアルゴリズムは、全球大気モデルの物理パラメータを推定するものであるが、陸面過程モデルのパラメータ推定にも同様のシステムを利用する。研究実施のなかで、パラメータ推定・データ同化を安定化させるための処置が必要であることが分かり、新たに共分散緩和手法を利用してこの問題を解決した。最終年度は、開発したパラメータ推定アルゴリズムとその知見を応用し、作物収量予測モデルのパラメータ推定を円滑に実施可能な状況にある。 (3) モニタリング及び将来予測計算の実施 (70%完了): 過去計算については、陸面過程モデル計算の入力データとなる気象強制力データを、データ提供期間のサーバーから自動的に入手してモデル計算を実施するシステムを開発済みである。このシステムは、2015年8月の開始から2016年12月まで長期に実施し、不具合無く計算が実施されていることを確認した。最終年度は、モニタリングに加えて予測計算を実施することになるが、基本的には入力データの差し替えを行うだけであり、次年度での実装作業は容易である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、平成28年度までに開発した陸面アンサンブルデータ同化システムSiBUC-LETKF、及び、サンサンブルパラメータ推定アルゴリズムを利用し、作物モデルのパラメータ推定・同化実験を進める。MODISにより提供される葉面積指数(LAI)や地表面温度データを同化し、日本内外の収量の年々変動を試みる。水稲以外の主要穀物である小麦・大豆・トウモロコシにもシステムを拡張する。本研究で用いる作物成育モデルは、水稲を対象に開発されたもので(Horie、 1995)、他作物への拡張が重要な課題となる。小麦・大豆は、稲と同様のC3作物であり、圃場レベルの先行研究を踏まえ、モデル内のパラメータ調整で対応する。特に、タイの稲作地域、オーストラリア小麦地帯、ロシア小麦地帯 について、重点的に取り組む方針である。 また、3年間の研究のとりまとめとして、実時間のモニタリング・予測実験を遂行する。モニタリング・予測結果までをHP上で随時更新していく事を検討している。なお、予測の公表に際しては、気象予報業務法を参照し、法に抵触しない範囲での公開とする。同法では、気象・水象の予測発表に予報業務許可の取得が義務付けられており、本研究では予報業務許可の取得までは検討していない。 研究の遂行に際しては、JAXA共同研究「EnKFを用いた全球数値天気予報モデルの降水量データ同化プロジェクト」の成果・知見も活用する。JAXA共同研究では、全球大気データ同化システムを用いた準リアルタイムデータ同化・予報をスコープに入れている。開発するシステムからの出力を、本課題においても積極的に利用し、相乗効果的に研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
請求時点の予定から、差額の生じた主要な理由は下記の通りである。 (1) 海外出張計画の修正 (約350、000円): 当初、年2回の海外出張を計画していた。うち1回を2017年4月に開催された欧州地球科学会(EGU)に出席することとしたため、使用額に差異が生じた。本報告書執筆時の2017年4月に当該国際会議には出席済みであり、次年度予算として執行する。 (2) 論文出版費(約450、000円): 当初、2年次に想定していた国際雑誌への論文投稿費に相当する。当該論文については、2017年4月に採択が決定しており、次年度予算で執行する。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額の理由となった2点、海外出張費と論文出版費については、いずれも既に次年度予算で執行する目途がついている。海外出張費については、2017年4月に開催された欧州地球科学会(EGU)に出席しており、次年度予算で執行する。論文出版費については、想定していた論文が2017年4月に英国王立気象学会の国際誌、Quarterly Journal of the Royal Meteorological Societyへの採択が確定した。そのため、次年度予算で執行する。
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