本研究課題では、人物挙動に関する数理的議論の整理に基づく歩行空間の評価方法の進展を大目標としていた。2018年度は、前年度までの網羅的な整理を踏まえて、スイス・ローザンヌ駅における大量データに対して詳細な実適用を行い、その整理の妥当性を検証するとともに、研究のとりまとめを行い今後の課題を整理した。 前年度までの適用は数十分程度のデータにとどまっていたが、2018年度はこれを900分のデータへの適用へと拡張した。具体的には、以下を行った。 (1)平日10日分における朝ラッシュ時における歩行者軌跡データに対して手法を適用した結果、同じ時間帯であれば同じような空間相関、すなわち空間評価が行えることを明らかにした。このことは、手法の普遍性を担保するとともに、元データが大量かつノイズを多く含むものであったとしても、歩行者流の流動性を下げる原因となるエリアを安定して特定可能であることを意味しており、手法の実用性の高さを示していると考えられる。 (2)2箇所の歩行者通路において取得されたデータに手法を適用した結果、通路によって流動性に影響を与える箇所が異なること、その原因が実際の歩行者挙動と一定程度関連づけて説明できることを示した。なお、流動性の低い場所はホームの入り口などの直感的に明らかな場所のみならず、幅の広い通路上においても安定定期に検出されることから、本研究による手法が潜在的に非効率的空間を発見できる可能性も示唆された。 また、これらの成果について学会等で発表するとともに、共同研究先であるスイス・EPFLの研究者との打ち合わせ、および対象地であるスイス国鉄・SBBの技術者との意見交換も行うことができた。
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