本研究は大型店舗と地元店舗における経済循環構造の違いを解明し,大型店舗進出による地域経済への影響を実証的に明らかにし,自立可能な「地域経済循環」の実現に向けた「構造改革」に資する政策提言を行うことを目的として実施した.具体的には大型チェーン店と地元商店それぞれについてインタビュー調査,統計データ,企業HPの公開データ等を用いて,主要商品に関する仕入れ,賃金,利益の額とその投入先(域内/域外)を把握し,地元商店,大型チェーン店それぞれの売上に占める「地域に滞留するマネーの割合」を比較した.初年度は京都市を対象として分析を行った結果,地域帰着率は大型店舗では2割程度であるのに対して,地場スーパーでは4割以上,地元商店では5割以上と,高い割合であることが示された,最終年度は,この結果が京都市特有のものなのか,あるいは,人口規模や市場規模や店舗の立地条件が異なる他の地域においても同様に当てはまるものなのかを解明すべく,地方である中国地方に属し,京都市とは異なる人口規模,市場規模を有する岡山市を一つの事例として,同様の調査を実施した.その結果,買い物支出のうち岡山市に帰着する割合は,地元小型商店,地元中型商店ではそれぞれ7割弱,6割弱であった一方,全国チェーンYでは3割に留まることが明らかとなった.以上より,本研究全体を通じて,消費者の買い物行動において,地元小型商店や地元中型商店ではなく,広域に展開するチェーン型大型店舗を選択する傾向が強ければ強いほど,より多くの資金が地域外に流出し,その流出先は,当該店舗の展開する範囲が広いほど,より遠方に流出する可能性が示された.本研究は,店舗形態の相違による地域経済への影響に関する知見を蓄積し,自治体や住民が地域活性化に向けた望ましい消費行動や小売店舗の立地政策の在り方について再考する結果となったと言えよう.
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