本研究の目的は,現実的な政策評価に応用可能な,時間・空間的な集積の経済・不経済を考慮した経済理論を構築することである.そのために,既存の研究成果を以下の3段階に分けて発展させる. [phase 1] 空間・交通ネットワーク構造を含む時間的集積経済モデルを構築し,その基本特性を明らかにする. [phase 2] phase 1で構築したモデルに空間的な集積の経済を導入し,時間・空間的な集積の経済を考慮した交通・立地統合モデルを構築する.そして,分岐理論・進化ゲーム理論に基づく分析手法により,その一般的特性を明らかにする. [phase 3] 前年度までに構築したモデルを用いた現実的な都市政策の影響評価手法を確立する.そのために,パーソントリップ調査や国勢調査データと整合的な基準均衡状態を得るためのパラメータ設定方法,安定均衡状態として創発する経済活動の時空間分布の効率的な導出手法を開発する.そして,幾つかの仮想政策の効果を定量的に評価することで,この手法の有用性を確認する. 最終年度は,実データを利用したパラメータ設定のための基礎を確立するとともに,開発したモデルにポテンシャル関数が存在することを利用した大規模モデルの効率的な数値解析手法を開発した.さらに,集積の経済・不経済を考慮した交通・立地統合モデルを用いて交通基盤整備に関する仮想政策の影響分析を実施し,モデルの特性を系統的に把握した.以上の成果により,本研究課題の目的を達成するとともに,政策評価手法をさらに発展させるための基盤を構築することができた.
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