本研究は,持続可能なまちづくりの観点から,人口減少時代の治水システムとして,人口密度の低い上・中流域で氾濫を許容する治水システムの構築を見据え,洪水共生型の集落システムにかかわる知見を得ることを目指している. 平成28年度は,秋田県雄物川中流域を対象に洪水との関係から見た集落の立地特性や洪水への対策,またドイツ・スイスにおける氾濫許容型治水システムや2段階洪水確率年数による堤防システム(仮設堤防型治水システム)の事例を対象として研究を進めた. 前者については,氾濫シミュレーションなどにより浸水頻度の高い集落とそうでない集落の大きく2つに分かれること,その違いは集落周辺の洪水状況に起因していること,洪水時の被害を最小限にする工夫がおこなわれていることなどの結果が得られ,平成29年度中にそれらの一部を研究成果として発表予定である. また後者については,スイス・ヴァルスの事例調査から,まちと水辺が一体となった魅力的なまちづくりのためには、単に氾濫許容型治水システムを採用すれば良いわけではなく、堤防や橋梁、建物などとの一体的な空間デザインの工夫が重要であることを示した.またドイツ・ミルテンベルクの事例調査から,2段階洪水確率年数による堤防システムの計画思想やまちづくりへの波及効果,また仮設堤防の運用の仕組みについて把握した.これらの成果については,「スイス・Valsにおける氾濫許容型治水整備の概報」として土木学会景観デザイン研究発表会および講演集に発表・掲載し,また「水辺をまちに開く治水デザイン-使い手目線からまちと川の新たな関係構築を目指して-」として雑誌「都市+デザイン(都市づくりパブリックデザインセンター)」に掲載予定である.
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