研究課題/領域番号 |
15K18141
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
風間 しのぶ 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 産学官連携研究員 (20749444)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒト腸管系ウイルス / メタゲノム / 下水 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
下水中のヒト腸管系ウイルスの存在は人間社会におけるウイルスのヒトへの感染状況を端的に示している.気候変動やグローバル化によるウイルスの生態変化によりさらに多くのウイルスを監視対象とする必要が生じると予測され,目的とする多種のウイルスを同時に検出して社会における感染状況を推定する必要があると考えられる.このような状況に対応するには次世代シーケンサー(NGS)を用いて下水から多種のウイルスを同時に検出・同定することが有用と考えられるが,下水中のヒト腸管系ウイルスの存在比は小さく,これらをNGSにて検出するには下水中のその他の膨大なゲノムを排除することが重要となる.本研究ではヒト腸管系ウイルスの多くが1本鎖 (+) RNAウイルスであり,ゲノムの3’末端にpolyA鎖を有するという特徴を利用し,下水中のヒト腸管系ウイルスを網羅的に検出する手法の確立を目的として以下2課題の解決を目指す. 課題1.1本鎖(+)RNAを有するヒト腸管系ウイルスゲノム増幅手法の確立 課題2.下水中のヒト腸管系ウイルスの網羅的検出 平成27年度は課題1の解決を目指し考案した2手法(手法1および手法2)に対して1.ウイルスゲノム全塩基長増幅のカバー率と2.増幅産物のNGSへの適用性についてモデルウイルスを用いて検証した.検証1.の結果として,手法1ではモデルウイルスゲノムの3’末端近傍のみが増幅され全塩基長をカバーした増幅産物を得ることができなかった.一方,手法2においては全塩基長をカバーした増幅産物を得ることができた.検証2.については,手法1はpolyA鎖がNGSで得られる配列のクオリティを下げ,且つ得られる配列数を減少させていることが示唆されたが,手法2ではこれら問題は見られなかった.つまり,手法2によって1本鎖(+)RNAを有するヒト腸管系ウイルスゲノムを増幅することが適当であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに進捗している.変更点として,課題1の検証2(研究実績の概要参照)では対象試料として下水を用いる予定であったが,より比較し易いモデルウイルスを用いた.この変更により検証1と2の結果を総合的に判断することができたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は当初の計画通り、宮城県内の浄化センターにて1ヶ月に1度の頻度で採水した流入下水を用いて,平成27年度検討した手法を実証する予定である.この実証実験では,多種多様なウイルスが検出されているか,また,季節性が反映されているか(例えば,冬にノロウイルスが優占であるか)確認する.また,同定不可能であった配列についてはDe novo(参照配列の無い生物種のゲノム配列からその全ゲノムマップを組み立てる)解析を行い新規ウイルスの検出を試みる.新規ウイルスと考えられた場合,その全ゲノム配列から検出系を作成し,全下水サンプルに対し定量PCR法にて新規ウイルスの検出を実施することで,その動態調査も行う. ただし、当研究室で所有しているNGS(JS Junior system, Roche)が平成28年度12月をもって全てのサービスを終了する(試薬の販売は平成28年5月末まで)ことになったため、NGSによるシーケンシングを委託する可能性がある.また、委託費用が高額となることが予想されるため、採水を2か月に1度の頻度とすることや他機関で所有するNGSにてシーケンシングを実施することを計画している.これにより、サンプル数が減少する可能性があるが本研究の目的遂行に大きく影響しないと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
シーケンシング委託をすることなく研究を遂行したため。
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次年度使用額の使用計画 |
シーケンシングに必要な試薬の購入に使用する。
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