下水中のヒト腸管系ウイルスの存在は人間社会におけるウイルスのヒトへの感染状況を端的に示している。グローバル化等によるウイルスの生態変化によりさらに多くのウイルスを監視対象とする必要が生じると予測され,目的とする多種のウイルスを同時に検出して社会における感染状況を推定する必要があると考えられる。このような状況に対応するには次世代シーケンサーを用いて下水から多種のウイルスを同時に検出・同定することが有用と考えられるが,下水中のヒト腸管系ウイルスの存在比は小さい事から下水中のヒト腸管系ウイルスを効率的かつ網羅的に検出する手法が必要である。そこで本研究では,下水中のヒト腸管系ウイルスの検出手法の確立を目指した。 平成27年度は手法の検討を行い,その結果,ウイルス同定に十分な塩基配列情報を高精度で得ることが可能な手法を確立することに成功した。平成28年度では,前年度に確立した手法を用いて,実際に流入下水中のヒト腸管系ウイルスの網羅的検出を試みた。その結果,本手法を適用しない場合と比べて40-1000倍の効率でヒトウイルス遺伝子を検出することが可能であった。また,2016年3月の下水試料から最も多く検出されたウイルスはノロウイルスであり,同サンプルからリアルタイムPCR法によっても高濃度で検出された。Mamastrovirusについては近年報告された新たな系統が検出され,それらによる感染者数の増加が推測された。また,未分類ウイルスとして,これまで日本では検出報告のない3種,及び本研究の報告以外に日本では検出報告の無い3種のウイルスが検出された。これらの結果から,本手法を用いることで下水中の相対的存在濃度が低いウイルスゲノムを効率的に検出できるようになり,これまで報告数が少ないヒト腸管系ウイルスや未分類ウイルスを含め人間社会に存在する種々なウイルスの網羅的検出が可能になった。
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