今年度(H29年度)は,本研究の最終年度として,対象地である熊本市古町地区の熊本地震後の温熱環境実測を行った.そこでの実測結果と前年度までに行った実測及び解析結果とを比較検討し,古町地区の温熱環境からみた特徴を総合的に明らかにした.また行政支援と建築教育への展開を目指し,対象地の環境要素(日射・日影に加え,不可視だが熱的快適性に影響する要素である気温・相対湿度・風向風速・放射(表面温度))を取りまとめる「環境要素スケール図」を研究・試作した.この環境要素スケール図と実測より得られた知見とを合わせることで,温熱環境からみた対象地の改善策を提案した.また建築教育に向けた教材の開発として,環境要素スケール図を用いて環境に配慮した建築を設計する授業プログラムを開発し,国立大学の建築学科を対象に実際の授業で実践することで,今後展開していく上で十分な成果が得られた.そしてこれら研究結果は,国内だけでなく海外の学会でも報告された. 特に対象地の温熱環境に関しては,熊本地震前後の温熱環境を比較することで,古町地区の「一町一寺制」という独自の空間構成が屋外生活空間の温熱環境に及ぼす影響が総合的に把握された.具体的には,まず現地調査より,対象地内の半壊・全壊した建物のうち,伝統的な建築の多くは住人の努力により維持・保存され,建築基準法改定以前に建てられた戸建て住宅の多くが取り壊されたことも確認された.そしてH29年8月に対象地の熊本地震後の温熱環境を把握し,地震前のH27年度の実測結果と比較した結果,地震後の戸建て住宅の取り壊しに伴う空地・駐車場化によるアスファルト鋪装面の増加が,対象地の生活空間の温熱環境の悪化を促していることを確認した.同時に地震後の空地の増加に伴い,中層・高層ビルと空地との組み合わせによる生活空間へ気流の導入と,周辺河川からの気流の流入とが強まったことも明らかとなった.
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