2040年には多死社会のピークを迎えるとも言われるわが国において、いよいよ喫緊の課題となっている高齢終末期患者の入院環境のデザインについて、調査研究を実施した。国の政策では高齢者の入院は在宅や施設に移行するものと計画されているが、実際にはまだ最期を迎えるひとの8割弱は病院で看取られており、急性期一般病院であっても患者の高齢・重症化のために、病棟では介護や見守りの必要性が高まっている。この十年だけを見ても、病棟の看護の様子は明らかに従来と大きく異なってきた。 本研究では①複数の病院訪問ヒアリング調査、②療養型のN病院を事例とした建て替え前後の病床配置調査の比較から、空間の差異による患者生活の変化や、高齢患者の特性、環境デザインに求められる配慮事項などを明らかにした。 具体的な高齢患者の特徴として、易感染、合併症の多さ、認知症による意思疎通の困難、排泄介助や汚物処理業務の増加、転倒転落、術後のせん妄の発生、徘徊など様々な点が挙げられるが、これらに関する介護的業務の負担および患者のケアは、環境のデザインで改善できる点も多い。 ①の調査からは、食事介助が必要な患者を集められる空間があれば介助が行いやすいこと、また誤嚥防止や夜眠れるように日中は車いすで起こしておきたい患者がいること、一人にしておくと不穏になる患者がいることなどから、スタッフステーションから目の届く位置にデイルームなどを設けることの有効性が示唆された。②の調査からは、介助があれば食事がとれる患者の病床が食堂の近くに配置されていること、おむつを使用する患者が多く病床とトイレの位置関係が近くなっても排泄形態は変化しないことが明らかになった。ほぼ多床室のみで構成される旧病棟では他の患者の病棟内転床にともなって玉突きでベッドを移動させられていた患者が見られたが、個室率の上がった新病棟ではこうした転床は見られなかった。
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