研究課題/領域番号 |
15K18192
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
守田 正志 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (90532820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トルコ共和国 / イスラーム / ビザンツ / ドーム / 建築技術 / アナトリア / 地中海 / 建築構成 |
研究実績の概要 |
本調査研究の初年度に当たる平成27年度は、研究主対象地域であるトルコ共和国西部において、ベイリク期からオスマン朝初期のモスクや墓廟建築の悉皆調査ならびに現地研究協力者との研究・調査打ち合わせ及び調査許可関係の調整を実施した。調査内容は、以下の通りである。 ●2015年9月(約2週間)に、トルコ西部諸都市(エディルネ、ゲリボル、ティレ、ミラス)およびその近郊において、約35棟のモスクや墓廟建築の現地調査を実施した。写真撮影・平面実測を中心に、当該地域における遺構の状況を把握するとともに、いくつかの遺構では文献において不明であったクリプトの有無や内部架構の詳細を確認した。 ●調査から得られた写真データおよび実測データに基づく平面図から、遺構ごとに、建築外部構成・内部構成の整理を進めた。本調査において、トルコ共和国西部に現存する墓廟を概ね調査し終えた。調査データを基に、これまでのデータベースを更新し、創建年代不明の遺構についてはその推定を行った。 ●刷新したデータベースをもとに、ドームの架構手法の整理および分析に着手した。 上記の調査ならびに研究成果の一部を、2015年度日本建築学大会、2015年度日本建築学会関東支部研究報告会等において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査に関して、本年度は研究計画に従ってトルコ西部で1回実施した。本年度の調査では、予定していた約20棟を大幅に上回る約35棟の遺構について調査を実施し、トルコに現存する検討対象の墓廟の調査をほぼ完了できたことから、データの拡充においては当初の計画以上に進展しているといえる。 調査で得られたデータを基に、予定通りドーム架構手法の分析を着実に進めている。 一方、近年のISによるテロ活動がトルコにおいても活発化してきており、来年度以降の現地調査の可否について慎重な判断を要する事態となった。そのため、トルコ以外の調査候補地の情勢などの情報収集を随時進めている。 以上から、現在までの達成度としては「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
●2016年度は、情勢を見極めたうえでトルコ西部に現存するイスラーム建築やビザンツ建築遺構に加え、場合によってはギリシャ・イタリア(テッサロニキ・ミストラ・ヴェネツィア・ラヴェンナ周辺)に現存する建築遺構を対象に、2 ~ 3 週間程度の申請者単独による調査を2 回実施する。調査内容は前年度と同様とし、対象遺構の平面実測図、写真測量図、細部写真等を拡充させるとともに、これまでの検討の精度を向上させる。併せて、大学図書館等で文献史資料の収集を行う。また、不測の事態による調査地の変更を想定し、事前準備(東欧における建築遺構のリストアップ)を平行して行う。 ●内部構成の検討の深化:ドーム直下の架構形式に着目した前年度までの検討を踏まえ、主階部と基壇部の複合手法、主階部下部からドームに至る架構形式について、単一遺構における複数の架構手法の使用法や組織化、その際に生じる同一手法間での差異をについて検討する。さらに、内部空間構成を、ドーム・ベイと他室との接続・分節手法(ベイの分節に角柱・円柱のどちらを使用しているか、天井高の関係など)に着目し、三次元的に検討する。 ●外部構成の検討の着手:ドーム建築の外部構成に関し、特にドーム下部周辺について、その形状と支持方法に着目する。ドーム部内外の形状、ドーム下部(ドラム部や控え壁)の外部形状や、架構部位(特に、スキンチ)の外観上の処理方法、それら三者の接合方法から、ドーム部全体の構築手法について、キリスト教とイスラーム文化圏下のドーム建築の異同について検討する。 ●調査および分析の結果を、各種学会の研究報告会・論文等で随時報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の3月に2回目の短期の現地調査を予定していた。しかし、予算的な面で、①年2回の調査に基づいた申請時の金額に対し支給金額の減額があった、②調査機材のカメラの故障により急遽購入の必要が生じた、という2点の理由から、2回目の調査の実施が困難になった。併せて、昨年度後半からトルコにおいてISによるテロ活動が活発化した。そのため、予算面・安全面の観点から十分な調査期間を確保できない状態で無理に2回目の調査を実施することは合理的ではないと判断し、2回目の調査を中止した。その分、昨年度においては必要な文献資料の購入や調査機材の新調に当初の予定以上の予算を充て次年度以降の調査に備えるとともに、約13万円程度を次年度使用額として確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は全額調査費に充てることを予定している。翌年度の請求金額と次年度使用額を併せることで予算的には年2回の調査費の相当額となることから、2016年9月と2017年3月に現地調査を実施する予定である。ただし、IS関連の動向によっては渡航事態が不可能になる事態も予測され、その場合には文献資料の購入予定費を増額するとともに、翌々年度以降の十分な現地調査費の確保を図る。
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