研究課題/領域番号 |
15K18192
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
守田 正志 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (90532820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドーム / 東地中海 / イスラーム / ビザンツ / 建築構成 / 建築技術 / アナトリア / ギリシャ |
研究実績の概要 |
本調査研究の2年目に当たる平成28年度は、研究主対象地域であるトルコ共和国ならびにギリシャ共和国において、中世ビザンツ教会堂を中心とする悉皆調査ならびに現地研究協力者との研究・調査打ち合わせ、調査許可関係の調整を実施した。調査内容は、以下の通りである。 ●2016年11月~12月(約2週間)に、ギリシャ共和国の各都市(アテネ、メテオラ、テッサロニキ)およびトルコ共和国のイスタンブルにて、約30棟の中世ビザンツ教会堂建築およびイスラーム建築の現地調査を実施した。写真撮影・平面実測を中心に、当該地域における遺構の状況を把握するとともに、内部架構の詳細を確認した。また、一部の教会堂においてはビデオ撮影による動画記録も実施した。 ●調査から得られた写真データおよび実測データに基づく平面図から、遺構ごとに、建築外部構成・内部構成の整理を進めた。本調査において、ギリシャ共和国に現存するドームを有す中世ビザンツ教会堂の主要遺構を調査し得た。また、オスマン朝の勢力拡大に伴う、現ギリシャ領でのイスラーム建築についても、数棟、調査し得た。調査データを基に、これまでのデータベースを更新した。 ●刷新したデータベースをもとに、ドームの架構手法の整理および分析を実施した。
上記の調査ならびに研究成果の一部を、2016年度日本建築学大会、2016年度日本建築学会関東支部研究報告会等において報告した。また、日本建築学会計画系論文集に査読論文として投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査に関して、本年度は研究計画に従ってギリシャ共和国を主対象地域とした現地調査を1回実施した。本年度の調査では、これまで進めてきた中世イスラーム建築の前身にあたる中世ビザンツ教会堂建築を約30棟調査し、今後の東地中海地域のドーム建築の比較考察を進めるためのデータを拡充でき、当初の計画どおり順調に進展しているといえる。 調査で得られたデータを基に、予定通りドーム架構手法の分析を着実に進めている。 一方、昨年度の夏に別途トルコ共和国での現地調査を予定していたが、2016年7月に発生したクーデター未遂事件直後であることから、調査を見送る事態となった。ただし、トルコ共和国での調査は、一昨年度において概ね終了していたことから、調査計画に大きな問題は生じてはいない。現在のトルコは、憲法改正の選挙(2017年4月)が済み、大統領に権力が集中する中、情勢が急変する恐れもあるため、トルコ以外の調査候補地の情勢などの情報収集を随時進めている。 以上から、現在までの達成度としては「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
●2017年度は、ギリシャやイタリア(ミストラ・ヴェネツィア・ラヴェンナ周辺)、また場合によってはルーマニア・ブルガリア・マケドニアの東欧諸国に現存する建築遺構を中心に、2 ~ 3 週間程度の申請者単独による調査を2 回実施する。情勢を見極めたうえでトルコ西部に現存するイスラーム建築やビザンツ建築遺構の補足調査を実施する。調査内容は前年度と同様とし、対象遺構の平面実測図、写真測量図、細部写真等を拡充させるとともに、これまでの検討の精度を向上させる。併せて、大学図書館等で文献史資料の収集を行う。 ●内部構成の検討のまとめ:ドーム直下の架構形式に着目した前年度までの検討を踏まえ、ドーム架構形式の系譜についてまとめる。特に、昨年度はアナトリア地域に特有といわれる三角形を用いたドーム架構形式の系譜について整理し終えたので、本年度は、他の架構形式(スキンチやペンデンティブ、ファンなど)の比較検討から、中世の東地中海地域におけるドーム架構形式の歴史的展開について総括する。 ●外部構成の検討の深化:昨年度と同様、ドーム建築の外部構成に関し、特にドーム下部周辺について、その形状と支持方法に着目した、ドーム部周辺の外部構成の検討を進める。ドーム部内外の形状、ドーム下部(ドラム部や控え壁)の外部形状や、架構部位(特に、スキンチ)の外観上の処理方法、それら三者の接合方法から、ドーム部全体の構築手法について、キリスト教とイスラーム文化圏下のドーム建築の異同について検討する。 ●調査および分析の結果を、各種学会の研究報告会・論文等で随時報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は2回の現地調査を予定していたが、2016年7月に発生したトルコクーデター未遂事件により、夏に予定していた調査を自粛したため、当初の見込みより旅費が残った。また、一昨年度に文献資料の購入や調査機材の新調に当初の予定以上の額を充てるために予算を残していたことから、本年度は予定通りビデオカメラの購入費に充てるとともに、書籍に関しては予定以上の予算を充て、買い控えていた書籍を購入した。一方、査読論文を投稿中であり、その掲載料も含め、本年度は約20万円程度を次年度使用額として確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の一部を調査費に充てることを予定している。翌年度の請求金額と次年度使用額を併せることで予算的には年2回の調査費の相当額となることから、2017年9月と2018年3月に現地調査を実施する予定である。ただし、IS関連の動向ならびにトルコの政治状況によっては渡航事態が不可能になる事態も予測され、その場合には文献資料の購入予定費を増額するとともに、翌年度の十分な現地調査費の確保を図る。
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