平成30年度は、本調査研究の最終年に当たることから、これまでの成果の補足調査として、北キプロス・トルコ共和国において中近世イスラーム建築および中世ビザンツ教会堂の悉皆調査を実施した。調査内容は、以下の通りである。 ●2018年12月3日~15日に、北キプロス・トルコ共和国のニコシアを拠点に各地域(ガジマウサ、ギルネ、ギュゼルユルト、カルパゾ)に残る、約40棟の中近世イスラーム建築および中世ビザンツ教会堂建築の現地調査を実施した。写真撮影・平面実測を中心に、当該地域における遺構の状況を把握するとともに、内部架構の詳細を確認した。また、一部の遺構においてはビデオ撮影による動画記録も実施した。 ●調査から得られた写真データおよび実測データに基づく平面図から、遺構ごとに、建築外部構成・内部構成の整理を進めた。本調査において、オスマン朝の勢力拡大に伴う、北キプロス・トルコ共和国領でのゴシック教会堂からの転用によるモスクを含む近世イスラーム建築の主要遺構を調査した。併せて、北キプロス・トルコ共和国に現存する中世ビザンツ教会堂について調査した。調査データを基に、これまでのデータベースを更新した。 ●調査で得られたデータを基に、予定通りドーム架構手法の分析を着実に進めている。特に、本年度の調査では、他地域には類例の少ないドーム架構を有す中世ビザンツ教会堂を実見でき、文献からでは得難い貴重な情報を得ることができたため、当該教会堂と同時代のビザンツ教会堂における位置づけやその後のドーム建築への影響関係についての考察を進めている。 ●上記の調査ならびに研究成果の一部を、2018年度日本建築学会関東支部研究報告会等において報告した。さらに、外部構成の検討、内部架構構成のデータ整理ならびに分析をすすめ、東地中海地域におけるドーム建築の系統的展開に関する査読論文の執筆を進めている。
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