研究課題/領域番号 |
15K18194
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 一貴 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 学術研究員 (90533977)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モダニズム / 故郷 / 家庭 / ジードルンク / 工業化 / セルフビルド / 田園都市 / 倹約 |
研究実績の概要 |
本研究は,第一次世界大戦直後の住宅困窮期におけるドイツで住宅建設をめぐって追求された新しい郷土像を明らかにすることを目的とするもので,住宅・都市の史的展開の実態解明に対する新しい視座の獲得を目指している。立場の異なる建築家や組織が提示する,理念と手法,それを基礎に応用したとされる実際の計画やその現況を分析することにより,新しい郷土像について,理念・手法の特質とその形成過程,そして建築空間像の把握を試みる。具体的には,以下のことを明らかにする。(1) 全国倹約建設方法振興連盟という団体がA・アンカーに編著を委託した『自然建設方法』(1919)の理論形成と建築空間像の把握,(2) P・ベーレンスとH・デ・フリースの共著『倹約建設について』(1918)の理論形成と建築空間像の把握,(3) デ・フリースの単著『未来の住宅都市』(1919)の理論形成と建築空間像の把握。 2015年度は,『自然建設方法』『倹約建設について』そして『未来の住宅都市』で示される理念と手法が,どのような議論の背景のもと,何を論拠として形づくられたか,そしてどのような議論を呼んだかについて,各著作で言及される原典資料や同時代の関連図書及び雑誌記事等の文献資料を調査・収集し,理論・手法の形成過程の分析を進めた。2015年9月から10月にかけてドイツに渡航し,ベルリン国立図書館及びベルリン工科大学図書館等にて文献資料の調査・収集を実施した。併せて,各著作で示される理念と手法を実際の住宅建設計画への応用に関し,実例の現況と具体的な建築空間像について予備的把握を行うためベルリン及びデュッセルドルフにて現地調査を実施した。 また,『未来の住宅都市』で示される理念・手法の実際の計画への展開については,本研究に先行して収集済みの文献資料を用いて分析を行い,その成果の一部を査読付き研究論文にまとめ,学会発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は,必要な文献資料について最新の所在状況を調査のうえ,交付申請書に記載した研究実施計画の通り,ドイツに渡航し,文献資料の調査・収集を実施することができた。日本国内からでも調達可能な文献資料についても調査・収集を進めている。収集した文献資料の一部については精査を進め,理念・手法の形成過程の分析に着手した。一方で,2016年度に計画していた現地調査の一部について,2015年度のドイツ渡航に際し予備的に行うことができた。以上から総合的に判断し,「(2) おおむね順調に進んでいる」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は,交付申請書に記載した研究実施計画の通り,文献資料の調査に基づく理念・手法とその形成過程の分析をさらに進め,作業を補完するとともに,現地調査に基づき建築空間像を分析する段階に入る。具体的には,『自然建設方法』『倹約建設について』そして『未来の住宅都市』で示される理念と手法を実際の住宅建設計画に応用した事例に関して,現地とその周辺状況の調査,記録文書・図面・写真等の建築資料の調査を行い,文献資料の調査・分析により得られた知見を検証するとともに,建築家たちが実際の住宅・住宅地建設に対してその理念と手法をどのように応用し,どのようなかたちにまとめたかについて分析し,具体的な建築空間像を把握することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者がドイツへの渡航を伴う調査に際して,他のプロジェクトと期間を区分して実施し,財源を分けて執行したため,外国旅費を当初の見込みよりも低く抑えることができた。このことから次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度は,交付申請書に記載した研究実施計画の通り,ドイツへの渡航を伴う文献資料の補足的調査および応用事例の計画地の現況調査の実施を予定している。当初,現地調査は2都市を見込んでいたが,2015年度の文献資料の分析から3都市以上における調査を要する可能性も出ている。これらのことから,そのための外国旅費,文献複写費としての使用を計画している。その他,いまだ収集し得ていない必要な文献資料のうち,国内外の機関の協力を得て,国内からでも貸借・複写等により調達可能なものが含まれることから,そのための現物貸借費や複写費,送料として使用することなどを計画している。
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