研究課題/領域番号 |
15K18200
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
南雲 一章 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40719259)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 陽電子消滅 / 金属物性 / 材料分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、リサイクル鉄鋼材料や原子炉圧力容器鋼などで重要なFe中のCu析出物の形成と欠陥集合体の形成の相関を明らかにすることである。このために、空孔型欠陥の同定とその周辺元素の分析を同時に行う陽電子消滅時間-運動量分布相関(Positron Age-Momentum Correlation; AMOC)測定装置を開発している。陽電子寿命が300ps程度となる欠陥集合体を含む金属材料に対して高精度のAMOC測定を行うために、試料と陽電子線源を物理的に分離する必要があるので、アバランシェ・フォトダイオード(APD)を用いた測定を行う。 本年度の研究実績として、APD-AMOC用の真空チェンバを作成し、測定上必要な真空度(e-4Pa程度)が得られることを確認した。また、真空チェンバ内に陽電子線源とAPDを設置し、線源から放出した陽電子をAPDを用いて検出した。陽電子がAPDを通過するときに得られるアバランシェ信号をオシロスコープで観測し、その立ち上がり時間が1.5ns程度であったのでAMOC測定のスタート信号として使用できる条件であることを確認した。AMOC測定のためにはこのAPDの信号と、消滅γ線を検出する光電子増倍管からの信号と、ゲルマニウム検出器からの信号の3つの同時計測を行う必要がある。このための同時計数回路をいくつかのモジュールを組み合わせて構築し、デジタルオシロスコープで3つの信号の同時計測に成功した。一方で、本実験で使用する試料の一部を作成し、従来の陽電子寿命測定等で問題がないことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AMOC測定は、従来の陽電子消滅測定と比べて計測イベントが極端に小さくなってしまうため、より高強度の陽電子線源を作成した。陽電子線源とAPDを固定するホルダーを作成し、真空チェンバ内に線源・APDと試料を離して設置した。この状態でAPDに逆電圧を印加してAPDからのアバランシェ信号をオシロスコープで確認した。得られた信号は立ち上がり時間が1.5ns程度で、従来の陽電子寿命測定で使用している光電子増倍管からの信号と比べて遜色はなく、AMOC測定のスタート信号として使用できることを確認した。消滅γ線の計測には、フッ化バリウム結晶(応用光研)と光電子増倍管(浜松ホトニクス;H3378)組み合わせた検出器と、高純度ゲルマニウム検出器(ORTEC)を用いた。AMOC測定イベントの検出には、2つの消滅γ線とAPDからの信号の同時計測を行う必要がある。この同時計測回路はいくつかのモジュールで構成されていて、γ線のエネルギー選別を行うための微分波高弁別器(ORTEC7029A)、ゲルマニウム検出器の増幅器(ORTEC672)、ゲルマニウム検出器の高速時間弁別増幅器(ORTEC474)、APDの増幅器(Phillips; Model 6954)、高速同時計測判定器(ORTEC414A)、汎用同時計測判定器(ORTEC418A)を組み合わせた。光電子増倍管の信号とゲルマニウム検出器の信号は数μ秒の差があるので、同時性を調整するためのゲート遅延発生器(ORTEC416A)も使用した。この同時計数回路からの信号をトリガーとして、デジタルオシロスコープ(Lecroy; WavePro7000)で3つの検出器からの信号を確認した。 以上の進捗状況から、当初の計画と比べておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の推進方策は当初の予定通りに行う。まず、平成27年度に構築したAMOCシステムで、純Fe、純Cuのベンチマーク測定を行う。ここで新システムを徹底的に検証し、既知の値の陽電子寿命が得られること、寿命スペクトルに試料成分のみが表れること、運動量分布の比率曲線でCu特有のピークが明確に表れることなどを確認し、問題点を全て克服してから照射試料の測定に移る。 平成27年度はに照射試験炉(Japan Materials Testing Reactor; JMTR)とベルギー研究炉(BR-2)の運転がされなかったので、測定試料の照射試験は行えなかったが、我々の研究グループでは、過去にJMTRで照射した、中性子照射したFe、中性子照射したCu、中性子照射したFe-Cu-Mnの試料を保有しいるので、本研究ではこれらで対応することにする。さらに、我々の研究グループで所有しているベルギーDoel-2炉およびTihange-2炉の圧力容器監視試験片でもAMOC測定を行い、照射した合金試料と比較し空孔型欠陥と不純物・析出物との相関を解明する。
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