研究課題
本年度はCeをドープした数原子層の厚みを持った清浄なh-BNを準備し,かつそれを確認する手法を確立することである.幾つかの方法を試みたが,結果として超音波による剥離法で極めて清浄な試料が得られることが分かった.また,単原子層の場合には60 kVや80 kVの低加速電圧の電子顕微鏡法でも試料ダメージにより,観察が困難であったが,数原子層の場合には80 kVでの観察も容易に行えることを確認した.したがって,本年度の研究目標は達成されている.しかしながら,不純物元素の同定が容易では無いことが明らかとなった.超音波による試料準備により,極めて不純物の少ない清浄な試料が準備出来るようになったものの,これらの不純物は単原子もしくは数原子から成るクラスターであり,分光分析でも容易ではない.本年度は電子エネルギー損失分光(EELS)による同定のみを行ってきたが,来年度はX線分光(EDS)を併用して,不純物元素の同定を行う予定である.本年度の研究成果として,h-BNの数原子層を準備する以前に,グラファイトから数原子層のグラフェンを得る予備実験を行った.その際に興味深い数原子層からなるモアレ原子構造が観察されたため,モアレ構造解析を行い,論文として発表した(R. Ishikawa et al., Sci. Rep 6 21273 (2016)). 派生研究ではあるが,二次元物質系の構造を決定する際に,今後役立つと考えている.
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画は“清浄な薄片試料の作製手法の確立および最適な観察条件の探索”である.数原子層の二次元物質を取得するにあたり,グラファイトを出発物質として数原子層のグラフェンの試料作製を行った.粘着テープによる剥離を検討したが,TEMグリッドへの転写の際にアモルファスカーボンが破損するなどの問題が生じた.そこで,本年度は超音波による剥離を行った.バルク試料を無水エタノール中に浸し,幾つかの異なる周波数帯の超音波に晒した.得られた分散溶液をTEMグリッドへ転送することで電子顕微鏡観察用の試料とした.同様の方法をターゲット物質であるh-BN:Ceに対しても行った.良く知られているように,低次元物質はknock-onダメージにより高加速電圧の電子顕微鏡法では観察が困難である.そこで,60 kVおよび80 kVの低加速電圧での観察を実施した.h-BNは絶縁体であるため,60 kVや80 kVの低加速電圧でも単原子層は電子線照射ダメージに大変弱く観察が難しい.しかしながら,数原子層の場合は比較的ダメージに強く80 kVでかつ20 pA程度の電流量であればでも問題なく観察できることが分かった.幾つかの方法で作成した数原子層のh-BNを観察したが,超音波による方法では遷移金属やシリコンなどのコンタミネーションも極めて少なく,最も清浄であることが分かった.また,グラフェンと比較してh-BNは原子レベルで広範に渡って平坦な数原子層が得られ,観察に適していることが分かった.
これまでの観察で,幾つかの不純物元素の存在を確認したが,期待していたCeであることが確認されなかった.確認する手法として電子エネルギー損失分光(EELS)を用いていたが,CeのL端は比較的エネルギーが大きく,単原子から取得することは難しい.そこで,本年度はX線分光(EDS)を併用することにする.この場合,どのような不純物であっても,単原子レベルでEELSよりも容易に確認できる.不純物を発見した際に,動的な観察をSTEMで出来るようにソフトウェアの構築を行ったので,EDSによる不純物元素の同定が出来れば,発光原因であるCeのh-BN中での状態を明らかにすることが可能となる.
本年度は予定よりもやや少なめの予算で実施出来たため,来年度に残額を持ち越した.
昨年度の実施の中で,様々な波長帯の超音波による剥離が有用であることが分かったので,異なる波長を発生できる超音波装置を導入する予定である.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 8件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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