研究課題/領域番号 |
15K18206
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中西 貴之 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30609855)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ユウロピウム / 磁気光学効果 / フローズンソルべ / 結晶ガラス・コンポジット |
研究実績の概要 |
本研究では無機らせん構造に希土類を導入した結晶で構成される新規な磁気光学ガラス材料の開発に取り組む。らせん構造を持つ無機結晶は、その特異な電子構造により大きな偏光面の回転(自然旋光)を生む。ここでは新たに磁場に応答する希土類をらせん構造内に導入することでファラデー効果【磁気光学現象】を飛躍的に増大させた新しい光学材料:結晶ガラスコンポジットの検討を行う。 希土類元素は本質的に電子スピンとその軌道が強く結びつき、そのことに由来する大きな磁気光学効果が報告されてきた。本研究では、スタッフドトリディマイトの無機らせん構造を持つ(Ln/Sr)Al2O4を含む透明ガラスコンポジットを作製し、その磁気光学効果および光学活性性について実験を行う。希土類をらせんの電子構造に導入した場合の磁気旋光性については未だ未解明であり、4f-5d電子物性を持つEu2+にどのような影響が出るかを明らかにする必要がある。本研究が完成すれば、光デバイスの光アイソレータ材料や磁気光学効果を用いたセキュリティ材料の開発に対し、強烈なインパクトとその可能性が提示でき、これまで似ない磁気光学材料の設計指針を提案できると考えている。研究初年度(H27)は、フローズンソルべ法を用いて、結晶とガラスで構成された透明な結晶ガラスコンポジット材料合成および基礎構造評価を行った。また光学活性については円偏光2色性の評価を行い分光的手法で検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は当初計画の通り、結晶ガラス・コンポジットの材料合成と様々な作製条件のもと試料作製に着手した。希土類Eu濃度を変えた(Eu/Sr)Al2O4結晶ガラス・コンポジット試料の作製はフローズン・ソルベ法にて行った。重要なファクターと位置づけたのは磁性中心となる希土類濃度であるが、その磁気光学機能は希土類イオン濃度が高いほど大きな磁気光学の性能値が期待できる傾向にあることがわかった。しかし、実際に得られた試料の透明性は悪くなり、実用材料として用いる場合はその最適化が必要であると考える。これには材料作製を繰り返し実際には希土類濃度を5-10mol%程度の試料で透明性と物性を維持した試料作製が行え適していると考えている。 また左-右円偏光の吸収差を表す円二色性(CD)スペクトル測定を用いて、Eu2+:4f-5dの光吸収スペクトルとCDスペクトルの対応関係を調べた。このシグナルは物質内にあるらせん構造の『光学活性』な波長位置と大きさの指標となるため重要である。左右らせん構造が対称な無機結晶構造においてEu吸収の偏光吸収位置に明確な差が生じた事実から、希土類Euの置換サイトに偏りがあることが生じていることが初めてデータで示唆された。ここでは、新たに希土類濃度を変えてCDスペクトルおよび光学活性な波長位置を変化させて磁場中のファラデー効果との対応関係について検討を行い詳細な分光解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は、主に磁気光学効果および光機能評価を中心に行う。厚さを揃え光学研磨を行った透明な(Eu/Sr)Al2O4結晶ガラス試料を作製し、1.5 T磁場印加のもとガラスを通過する偏光の回転角を計測して磁気光学物性の評価を行う。CDシグナルの回転角(θ / deg・cm2・dmol-1)、及び位置(波長/ nm)は、無機らせん構造に入るEu2+濃度変化や粒子サイズ・形態に対し大きく異なることが推測される。ここではCDの形状と大きさを指標に、実測ファラデースペクトル(濃度で規格化したヴェルデ定数を定義)を用いて、希土類毎の回転能力を見積もる予定である。この指標は希土類イオンひとつ当りの能力値となり希土類間で比較を行える。これらの実験・検討によりファラデー材料設計の新しい指針を得る。またファラデー効果の[波長帯の変化+性能値向上]を目的に希土類種を変えた試料作製と機能評価が重要である。ファラデー効果は、物質の磁性および光吸収と強く依存するため、有効ボーア磁子の大きな希土類ほど大きな効果を期待できる。本物質は透明な無機バンド中に希土類の光学電子遷移に起因したファラデー効果が期待される。ここでは可視域に4f-4f電子遷移に基づく吸収バンドがあり、有効ボーア磁子の大きな希土類を用いて、可視や近赤外帯のファラデー効果誘起を検討する。得られた成果については、国内外学会で報告し論文として情報発信を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品として購入予定だったNIR分光器(70万円)と同スペックの分光装置を、研究グループ内の連携研究者が購入しておりその共同利用ができる実験環境が整ったため、無理に購入する必要が無くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究を進める上で、ファラデー効果測定用に、新たにロックイン増幅器(30万円)を購入する必要が生じ、本年度その購入を行う必要があり効率的研究遂行のため利用計画をおこなっている。
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