次世代の高熱伝導材料であるスピン熱伝導性結晶(SrCuO2)を用いて、散逸した熱エネルギーを効率よく収集・排出する熱輸送回路を創製することを目標とした。 初年度はSrCuO2が高密度に析出した多成分系結晶化ガラスを作製し、X線回折及び電子顕微鏡観察等を用いた構造調査により特異なSrCuO2析出機構を明らかにした。定常熱流法により熱伝導率の温度依存性を調査した。室温においては、結晶化ガラスの報告値としては最大となる5 W/(mK)の熱伝導率を得た。この高熱伝導性は、SrCuO2の析出による熱輸送キャリアの増大及び結晶化による熱輸送キャリアの平均自由行程の増大によるものと解釈される。また、上記材料の形態制御と熱伝導の可視化を試みた。Sr-Cu-O系結晶化ガラスファイバーを作製し、赤外線カメラを利用した熱拡散の時空間マッピングに成功した。 最終年度は、高周波マグネトロンスパッタ法により製膜したSrCuO2準安定(非晶質・微結晶)膜を用いて高熱伝導性ラインの形成を試みた。SrCuO2準安定膜上に波長532 nmの偏光レーザー光を走査(このとき電場方向と走査方向は垂直)することにより、1次元的な高熱伝導が期待されるスピン鎖構造をレーザー光走査方向に沿って異方的に合成できることがわかった。レーザー光走査部の顕微ラマン散乱を調査し、スピン鎖構造の形成機構を調べた。その結果、SrCuO2が持つ構造異方性に起因する光吸収の異方性がスピン鎖の形成を支配することを明らかにした。この高速熱輸送ラインの形成は熱輸送回路の実現において重要なテクニックとなりうると考える。
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