研究課題/領域番号 |
15K18211
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
太田 寛人 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60546985)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遍歴強磁性 / 局在磁気モーメント / 強磁性-反強磁性転移 / 補償型フェリ磁性 |
研究実績の概要 |
I 既存物質におけるメカニズムの解明: 強磁性-反強磁性転移を示すLnCoPO (Ln=Nd,Sm)のLa部分置換系およびSr2(Sc,V)O3CoAsを合成し磁化測定を行ったところ、強磁性-反強磁性転移を誘起するVの濃度と転移温度が無関係であり、局在磁気モーメントが強磁性内部磁場と一イオン的に結合していることがわかってきた。Nd2Co12P7の単結晶を合成し磁化測定を行った。最低温で反強磁性状態であるが、磁化に15K以下で補償型フェリ磁性的な振る舞いが見られた。また、CoにFeまたはNiを部分置換した系の磁化を解析したところ、Ndの秩序化磁気モーメントがCoの内部磁場に誘起されているこを示唆する結果になった。以上より、強磁性を示す遍歴電子系に局在磁気モーメント系が隣接すると、局在磁気モーメントが強磁性内部磁場と一イオン的に結合することがわかってきた。 II 物質デザインによる普遍性の検証: Ln2Co12P7のLnをPrからYbまでの物質の多結晶試料の合成を行い、磁化測定を行った。その結果、Coの自発磁化とLn3+のスピンが強磁性的に結合しており、結果として全磁気モーメントが軽希土類では自発磁化と反平行に、重希土類では平行に秩序化することがわかった。これは永久磁石の母材などでみられる傾向と逆である。その原因は直接交換相互作用か超交換相互作用かに起因していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、遍歴電子強磁性体の中に存在する局在磁気モーメントが特異な振る舞いを示すことに注目し、結果として起きる現象の探索とメカニズムの解明をめざしている。テーマに合致する既存の物質を対象にメカニズムの解明を目指した第1の課題では、CoMnSiの合成に成功しておらず、この点で計画が滞っている。一方で、他の3つの物質系では順調に合成および測定が進んでおり、現象の発見およびメカニズム解明に向かっているといえる。第2の課題では条件に合致する物質をデザインするが、第1課題に比べて難易度は高い。YCo9Si4やLaFe4Sb12の研究は合成が成功せず進展が思わしくない。一方で、Ln2Co12Pn7に関しては順調に合成および物性測定が進んでおり、新たな現象の発見につながっている。 このように、当初予定していた計画と照らし合わせると、一部の物質の研究は進んでいないが、残りの物質に関しては当初の予定を超えて研究が進展しており、全体としては概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は平成27年度に想定した成果の出なかった物質系をより重点的に合成を行う。具体的にはCoMnSi, YCo9Si4およびLaFe4Sb12である。これらに関しては原料の質や合成手段を改めて精査し、アーク溶解法や高圧合成法など試していく予定である。一方で、合成できなかった場合のリスクを考えて、すでに研究の進展している物質系の研究をより進展する予定である。初年度の研究の感触から、巨視的な物性測定から得られる知見は当初想定よりも多いと感じる。したがって、磁化測定の他に比熱測定や磁気抵抗測定を重点的に測定していく。また微視的な測定もメカニズム解明には不可欠であるため、物質系を慎重に選択した上で、可能な限り測定を行う予定である。また、初年度の研究結果から本研究課題の範囲を超えた普遍性が見られた。具体的にはNd2Co12P7の低温で観測された異常な磁化の振る舞いは逆スピネル化合物Co2SnO4でも見られる。平成28年度はこのような発展性に関しても意識し研究を進捗していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成用原料の支出が当初の予定より大きくなったため、高温用電気炉の購入計画を変更し、既存の電気炉での合成を行った。また、測定用パソコンに関しても、支出を抑えるために、パーツを購入して自作し支出を抑えた。これらにより、全体の支出が当初の予定より減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由により発生した次年度使用額は、次年度の最初から切れ目なく研究を実行するために使用する。具体的な使用計画は、不活性ガス雰囲気用のアルゴンガスの購入や単結晶育成に使用するビスマス原料の購入、および粉末X線回折測定を実験室レベルでより精密に測定するためのSi単結晶無反射板の購入、および研究を切れ目なく遂行するために必要な消耗品の購入である。
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