研究実績の概要 |
遍歴電子強磁性体の中に導入された局在磁気モーメントが通常の2副格子系では見られない振る舞いをすることに着目し, I. 既存物質におけるメカニズムの解明 および II. 物質デザインによる普遍性の検証 の2段階で研究を行ってきた。 本年度は初年度に進捗しなかった II. 物質デザインによる普遍性の検証に重きをおきつつ, I. 既存物質におけるメカニズムの解明も並行するかたちで研究を開始した。II. のテーマに関しては, YCo9Si4やLaFe4Sb12など合成条件の検証が十分に進まなかった物質は途中で断念し, Ln2Co12P7の関連物質に対象を絞り, 研究を滞りなく実施した。その結果, それぞれ次の成果が得られた。 I. Nd2Co12P7の単結晶を用いた強磁場磁化過程を様々な温度で測定した結果, 低温でみられた磁場誘起反強磁性-強磁性転移の転移磁場に大きな温度依存性は見られなかった。これにより磁場-温度電子相図の作成に成功した。転移磁場の温度依存性に関しては現在モデルの検証中である。 II. Ln2Co12P7に関して強磁性状態におけるLnの磁気モーメント由来の磁化を抽出し解析を行ったところ, Lnの磁気モーメントが周りの伝導電子と磁気的に結合する機構は従来のネオジム磁石やサマコバ磁石の母材と同様であることが分かってきた。これらの母材と比べると強磁性磁化とLnの局在磁気モーメントの結合は逆であるが, これは間にP原子を介していることに原因があることが確定的になってきた。一方で, 強磁性を担うCoの一部は局在性が強い磁気モーメントを持つことが分かっている。このCoのみをFeに置き換えたところ, 強磁性転移温度が6割上昇した。この結果はLnの局在磁気モーメントによる影響とは全く異なっており, 局在磁気モーメントの性質や位置によってざまざまな効果を発揮することを示すと考えられる。
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