研究課題/領域番号 |
15K18219
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小助川 博之 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (00709157)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化熱可塑性プラスチック / ポリマーアロイ / 界面せん断強度 / フラグメンテーション試験 / シランカップリング / 表面自由エネルギー / モルフォロジー / 酸素原子比率 |
研究実績の概要 |
本研究は、ポリプロピレン(PP)とポリアミド(PA)から構成されるポリマーアロイと炭素繊維の界面接着の機序を解明し、界面せん断強度を向上させる方法の構築を目的とする。上記の目的遂行のため、本年度は、以下に示す項目について研究を進めた。 ① PP/PAポリマーアロイの合成と炭素繊維との複合、およびモルフォロジー評価 任意の量のPPとPAに少量の無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(MAgPP)を加え、PP/PAポリマーアロイを合成し、炭素繊維の単繊維と複合化した単繊維複合材料(SFC)試験片を作製した。リンタングステン酸染色を行った上で、そのモルフォロジーを透過型光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡にて観察し、評価した。リンタングステン酸では染色が弱く、炭素繊維の周辺におけるPPとPAの分布を定量的に評価できるまでには至らなかったが、MAgPPを加えた試験片はPAの分散性が極めて良好であることを確認した。 ② 炭素繊維とポリマーアロイの界面せん断強度の測定 サイジングが付着した商用の炭素繊維(s-CF)と、化学的にサイジングを除去した炭素繊維(de-CF)のSFC試験片をそれぞれ作製し、フラグメンテーション試験を行うことでPP/PAポリマーアロイに対する界面せん断強度の測定と、サイジング剤の有無が界面せん断強度に与える影響の評価を行った。ポリマーアロイにおけるPAの成分比率が上昇することで、s-CFとの界面せん断強度は上昇し、PAのみを母材とした場合の界面せん断強度(本実験では22MPa)に近づくことが判明した。また、de-CFとすることで、界面せん断強度が著しく低下することが分かった。これは、サイジング剤部分がPAのアミド結合と水素結合を形成し、界面接着力を向上させているためである。本実験により、界面せん断強度における繊維の表面化学とポリマーアロイ成分の相関性の一部が解明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素繊維表面の化学修飾と表面自由エネルギーの計測、および炭素の単繊維表面におけるPP/PAの分布評価はまだ不十分であるが、炭素繊維とポリマーアロイの界面せん断強度の測定については当初の計画よりも大幅に早く実施することが可能となった。これにより、炭素繊維の表面化学とポリマーアロイの成分が界面せん断強度に及ぼす影響を評価することが可能となり、予定よりも早く炭素繊維強化ポリマーアロイの界面接着の機序の一部を解明することができた。 また、炭素繊維の表面修飾については、ソクスレ―抽出器を用いたメチルエチルケトン/アセトン混合溶媒による還流操作によるサイジング剤の除去を行っており、X線光電子分光法による繊維表面における酸素原子比率の定量評価と界面せん断強度との相関性についての考察もすでに実施している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の2つの事項について研究を推進する。 ① 炭素繊維表面の化学修飾と表面自由エネルギー(SFE)および界面せん断強度の測定 本年度において、炭素繊維表面に付着しているサイジング剤が界面せん断強度に与える影響について評価を行ったが、さらに炭素繊維表面の酸素原子比率の影響も定量的に評価を行う。具体的には、Gaoらが報告しているグラフェンの還元操作と類似した方法で還元処理を(Gao, et al., Nature Chemistry, 2009)、もしくは混酸を用いて逆に酸化処理を施すことで、炭素繊維表面の酸素原子比率の調整を行う。これとは別に、シランカップリング剤によるアルキル基の付与も行う。得られた炭素繊維のSFEを、極小接触角計を用いて評価する。また、各炭素繊維の界面せん断強度をフラグメンテーション試験により測定する。 ② 炭素繊維/樹脂界面におけるポリマーアロイのモルフォロジー評価と微結晶サイズの測定 四酸化ルテニウムを用いてポリマーアロイの染色を行い、繊維表面におけるPP成分とPA成分の分散性を評価する。具体的には、単繊維複合材料(SFC)試験片の断面におけるルテニウムあるいは窒素元素の分布を、エネルギー分散型X線分析を用いて評価し、これを複数ヶ所の断面部において行い分析結果を統合する。また、SFC試験片を断面方向に薄くスライスした試験片を用意し、これを用いた広角X線散乱によるポリマーアロイの微結晶サイズ評価法のプロトコル作製を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、ポリマーアロイの作製と加工の補助のために人件費を計上していたが、PPとPAの混練とフィルム化の作業を工夫したことで作業効率が上がり、これを使用する必要がなくなったことが大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
フラグメンテーション試験は簡易的な条件であればすでに行うことができるが、より実験条件を充実させ、繊維/樹脂界面の接着の機序を詳細に調査するために、今年度生じた予算残額を利用して試験装置の機能拡張を計画している。
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