本研究は、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)とポリアミド(PA)から構成されるポリマーアロイと炭素繊維の界面接着の機序を解明し、界面せん断強度を向上させる方法の構築を目的とする。本年度は、以下に示す項目について研究を進めた。 ① 繊維/樹脂界面におけるポリマーアロイのモルフォロジー評価と界面せん断強度への影響 走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて、炭素繊維とポリマーアロイマトリクスの界面におけるポリマーアロイの相分離構造の分布を詳細に調べた。PAの濃度によってポリマーアロイの連続相と分散相の成分はPPとPAで入れ替わることを確認した。繊維表面が極性を有するとき、分散相がPAの場合は繊維表面に濃度に応じて水素結合により接着し、分散相がPPの場合は連続相であるPAが繊維表面を覆うことが分かった。一方、繊維表面が非極性であるとき、分散相がPAの場合は繊維表面に接着せず、分散相がPPの場合は疎水性相互作用によって繊維表面に接着することが分かった。このことから、繊維とポリマーアロイの界面せん断強度は、繊維と樹脂の表面自由エネルギーによる接着仕事だけでなく、繊維/樹脂界面における相分離構造も考慮に入れることで説明されることが分かった。 ② シランカップリングによる繊維表面の最適修飾と界面せん断強度の向上 シランカップリングにより繊維表面に分子鎖が長い官能基を修飾することにより、物理的結合とアンカー効果による界面せん断強度の向上が実現できることを示した。修飾する官能基が極性である場合は極性繊維を用いた場合と、非極性の官能基の場合は非極性繊維を用いた場合と同様の傾向の界面せん断強度を示し、非極性繊維の場合における最大の界面せん断強度はシランカップリングを行わない場合に比べて20%程度上昇することが分かった。
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