研究課題/領域番号 |
15K18221
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
上野 慎太郎 山梨大学, 総合研究部, 助教 (40647062)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セラミックス / 複合材料・物性 / 電子・電気材料 / 誘電体物性 / コンデンサ / 粒界絶縁型構造 / 界面制御 / 溶液プロセス |
研究実績の概要 |
まず導電体/絶縁体複合コンデンサのモデル実験として実施しているチタン金属/チタン酸バリウム複合コンデンサについての結果を述べる。チタン金属-チタン酸バリウムコア-シェル粒子を基に、低温でチタン金属/チタン酸バリウム複合コンデンサを作製し、この微細構造と誘電特性の関係性について調査を行った結果、チタン金属の平均粒径を数十マイクロメートルから数マイクロメートルへと微小化することによって、有効比誘電率が100Hz~100kHzの範囲で10,000以上、誘電損失が約5%以下であり、絶縁性も改善された試料を作製することができた。また温度依存性についても比較的良好である。このモデル実験から得られた設計指針から、本研究課題の目的である導電体/絶縁体複合コンデンサの理想的な微構造を作り込むためには、(1)導電体層をサブミクロン程度に微小化し、(2)その表面に絶縁層を数十nm程度の厚さでエピタキシャル成長させ粒界絶縁層とすることが挙げられる。本年度は引き続き導電体にペロブスカイト型構造を持つニッケル酸ランタンを採用し、その表面に同じ結晶構造を持つ、絶縁体エピタキシャルコーティング層を溶液プロセスによって形成する手法を、ある程度確立することができた。実際にゾル-ゲル法により合成したニッケル酸ランタンの不定形粒子に対して、ソルボサーマル法を用いることで数種類のペロブスカイト型絶縁性酸化物を100nm程度以下の厚さで被覆させることに成功した。ニッケル酸ランタン粒子は必ずしも形態制御する必要がないことが判明したので、従来の粉砕プロセスによって粒径を微小化・制御することができるため、今後は微細構造の最適化を行い、目的とする高誘電率・低損失の導電体/絶縁体複合コンデンサの完全低温プロセスによる作製を実現する。また平成28年度で得られた成果は、複数の学会で報告を行い、高い評価を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究では、平成27年度の実施計画において課題であった導電性酸化物(ペロブスカイト型構造を持つニッケル酸ランタン)粒子表面に絶縁体(同結晶構造を持つ酸化物絶縁体)を成長させ、導電性酸化物を緻密な絶縁体のナノレイヤーによって被覆する手法について、これを解決することに成功した。平成27年度時点での方策では、結晶成長の観点から上記の絶縁体層による被覆に有利だと考えられる、ゾル-ゲル-フラックス法によって合成したニッケル酸ランタンの直方体状の粒子を採用する予定であったが、フラックス剤として用いた塩化物が以降の絶縁体被覆プロセスにおいてニッケル酸ランタンの分解を促進している可能性が実験結果から示唆された。そのため、ニッケル酸ランタンのナノ粒子をフラックス剤を用いない通常のゾル-ゲル法によって合成し、水熱法によって数種類のペロブスカイト型の酸化物絶縁体による被覆を試みたところ、目的としていた絶縁体層のナノレイヤーによって緻密に被覆されたニッケル酸ランタンナノ粒子の作製に成功した。またこの際、ニッケル酸ランタンの明らかな分解は確認されていない。更に反応時間や原料濃度などの反応条件を調整することによって、絶縁体層の厚みを制御することが可能である。このようにフラックス法等を用いた結晶面制御(結晶形態制御)が必ずしも重要ではないことが分かったため、今後はナノ粒子の粉砕等により調製した分散性が良好なニッケル酸ランタンナノ粒子を基にしたプロセス設計が可能となる。これとは別に、絶縁体粒子同士をソルボサーマル条件下での化学反応によって接合し、緻密な成型体を得る方法を確立している。これらのプロセスを複合し、ニッケル酸ランタン/絶縁体複合成型体を得ることが可能となり、誘電特性を評価しながら構造の最適化に移る段階に到達したので、進度は概ね良好だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はソルボサーマル法によって調製可能となった、酸化物導電体-絶縁体コア-シェルナノ粒子を基に、当初の目的である緻密で高密度な界面を持つ3次元ナノ複合セラミックコンデンサの作製を試みる。これまでの導電体-絶縁体複合コンデンサ作製に関する研究から、特に重要だと分かっている導電体粒子の平均粒径、絶縁体で構成される粒界層の厚みを制御し、誘電特性との関係性を調査する。具体的な制御方法として、ニッケル酸ランタンの粒径制御はボールミル等による粉砕条件の検討、絶縁体層の厚さ制御については、ソルボサーマル反応において重要な因子である、濃度や反応時間を調整することで実現する。またプロセスの自由度が高まったため、ソルボサーマル法により導電性酸化物粒子表面に成長させることが可能な絶縁体の探索も並行して行いたいと考えている。一方で、溶液プロセスにより合成済みである、絶縁体層により被覆されたニッケル酸ランタン導電性ナノ粒子について電子顕微鏡観察を行い、界面における結晶方位の決定を行う。この結果を基に絶縁体層のエピタキシャル成長が起こっているかを判断する。また放射光施設を利用した、特殊な界面に起因する微構造の変化について解析を行うなどして、誘電特性と微構造の関連性を明らかにし、より高度な誘電材料設計を行うための指針を得る。こうして多方面から最適化を行った3次元エピタキシャル界面を有する導電性/誘電性ナノ複合フルセラミックスコンデンサについて、電気特性の詳細な解析を行う。こうした一連の実験から得られた成果は、順次学会や学術論文等を通じて情報発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の高温焼成可能な特殊電気炉から電圧印加ユニット付の水熱装置への購入予定変更に伴い生じた前年度未使用分が余剰した一方、今年度は計画通りに推移したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては研究成果の発表に注力するため、国際学会費用、論文出版費等に使用を見込んでいる。研究に必要な消耗品等にも一部を支出する予定である。
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