研究課題/領域番号 |
15K18226
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
濱田 真行 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (90736282)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉛フリーはんだ / 低Agはんだ |
研究実績の概要 |
本研究ではSn-3mass%Ag-0.5mass%Cu(以下SAC305)のAg量を減少させることで低下した耐クリープ性を固溶強化で向上させることで、SAC305と同等以上の耐クリープ性を有する0.3mass%まで低Ag化したはんだ合金の開発を目的としている。 本年度は、Sn-X二元合金におけるXの含有量と耐クリープ性の指標となる流動応力(定常状態での変形応力)の関係を高温引張試験により調査し、低Ag化による流動応力の減少を補完するための最適添加元素の選定を目標にした。最適添加元素は3元素(Bi、In、Sb)の中から選定する計画であったが、研究協力者らと実施した第一原理計算を用いた解析を考慮してAuも追加した。最大固溶限以下の含有量の二元合金を準備し、温度25℃、ひずみ速度0.001s-1で流動応力を測定した結果、Sn-Au合金とSn-Bi合金でSAC305と同等以上の流動応力を示した。特にSn-0.15mass%Auでは、組織観察の結果からAuの固溶強化が強く寄与していると推定された。主たる強化機構が固溶強化であるSn基合金で、SAC305と同等以上の流動応力を示す合金はこれまでに報告されておらず、新規性の高い合金であると考えられた。 そこで、Sn-Au合金が特許出願の価値を有するか判断するために、当初計画を変更してはんだ合金としての基本特性(融点、広がり率、高温時効前後の流動応力、組織観察)を調査した。調査結果から「融点と広がり率は実用上問題ない」、「Au添加量が0.05と0.15mass%のSn-Au合金では、高温時効(125℃、500時間)による流動応力の減少がない」ことが明らかになった。高温時効前後の流動応力がほぼ一定というSAC305等の従来の鉛フリーはんだにない特性を有していることから、特許出願することにした(2016年6月末までに出願予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SAC305と同等の流動応力を有し高温時効(125℃、500時間)前後の流動応力がほぼ一定となるSn-0.15mass%Auを見出すことができた。研究目標の観点からは、SAC305と同等の流動応力を有した上でAgレス化(研究目標では0.3mass%までの低Ag化)まで達成することができた。研究初年度の成果としては十分であると考えている。 本年度の当初計画では、低Ag化による流動応力の減少を固溶強化で補完するための最適添加元素を選定するためにSn-Au、Sn-Bi、Sn-In、Sn-Sbの各合金について、6条件(温度25、125℃、ひずみ速度:0. 01、0.001、0.0001s-1)で高温引張試験を実施し、ひずみ速度と流動応力の関係を解析する計画であった。しかしながら、Sn-Au合金のはんだ合金としての基本特性評価を優先したため、最終的には1条件(温度25℃、ひずみ速度0.001s-1)でしか高温引張試験を実施することができなかった。1条件のみであっても「Bi添加は流動応力の上昇に顕著に寄与し、InおよびSbの添加は流動応力の上昇にあまり寄与しない」ことが明らかになり、最適添加元素はBiであると推定できたことから、現在までの進捗状況はおおむね良好と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題はSn-Au合金の低価格化であるが、まずはSAC305未満の価格となることを目標とする。目標の達成には、Au含有量を0.15mass%から0.05mass%以下まで低減(低Au化)させる必要があるが、低Au化すると当然流動応力も減少する。そこで、次年度は低Au化による流動応力の減少を元素Yで補完したSn-Au-Y三元系合金の研究を進める予定である。 本年度は、Auを添加した多元系(Sn-Ag-Cu-Au等)の高温引張試験も実施したが、多元系合金ではAu含有量が同量のSn-Au合金よりも流動応力が低くなった。多元系合金中に存在するAuCu系金属間化合物の形成にAuが消費されることにより、Sn相中のAu固溶量が減少することが原因と考えられた。以上の結果から、「多元系合金での固溶強化では合金元素間の相互作用も考慮すべき」という知見が得られた。 次年度はこの知見を踏まえて、Sn-Au-Y合金におけるAuとYの相互作用をあらかじめ第一原理計算により解析し、Auとの相互作用が強い元素を除外して合金設計することで効率的に実験を進めたいと考えている。また、今年度の高温引張試験でSAC305より高い流動応力を示したSn-Biおよび今年度計画していたSn-In、Sn-Sbの各二元合金については、次年度以降に詳細調査を実施する予定である。 本年度は高温引張試験により流動応力の測定を実施したが、試験片作製にかかる経費が高いうえ、1試料で1データしか取得できないことがわかった。そこで、次年度からは試験片形状が単純で作製費を抑制でき、かつ1試料で複数データを取得できる圧縮試験を導入し、効率的な研究推進を目指す。
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