高湿度環境下における溶融亜鉛めっき鋼材の疲労強度を評価した。鋼材にはS45Cを用いた。大気雰囲気中での疲労強度と比較して,高湿度環境下におけるめっき材の疲労強度は高応力・低サイクル側で増加し100000回に近づくほど大きくなった。疲労限は高湿度環境下でおよそ480MPaであり,大気雰囲気中では,410MPaであった。破断面を解析し,疲労破壊起点部とき裂の安定成長域について解析した。高応力・低サイクル側から低応力・高サイクル側にかけて破断面の形態が変化した。すなわち,高応力・低サイクル側では,複数箇所からき裂が発生・進展しており,き裂の安定成長域の破断面形状が三日月形状であった。一方,低応力・高サイクル側では,一箇所からき裂が発生・進展しており,き裂の安定成長域の破断面形状は楕円形状であった。高湿度環境下において,破断面形態が遷移する破断サイクル数は,大気雰囲気中でのそれよりも大きかった。なお,破断サイクル数に依らずき裂起点部は亜鉛めっき層であった。以上の結果から,高湿度環境下では,亜鉛めっき層が何かしらの要因で強化されたことが示唆される。その要因を特定するために,破断面上の亜鉛めっき層組織を解析した。その結果,高湿度環境下では亜鉛めっき層表層が大きく酸化されていた。昨年度までの研究で,高サイクル側では,亜鉛めっき層の最も表層にある純亜鉛相が変形易であり,入込み・突出しが表面上で形成容易であるため疲労強度が低下していることが分かっている。純亜鉛相は酸化されると静的強度が増加する。高湿度環境下において疲労強度が上昇した要因は,高湿度によりめっき表面が酸化され,表面上での入込み・突出しが形成し難くなり,初期き裂の形成が抑制されたため,と考えられる。
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