研究課題/領域番号 |
15K18234
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
宮岡 裕樹 広島大学, サステナブル・ディベロップメント実践研究センター, 特任講師 (80544882)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 窒素解離 / リチウム合金 / 活性窒素利用 / 窒化物合成 / 触媒プロセス |
研究実績の概要 |
本研究では,リチウム(Li)と14族元素(M = C, Si, Ge, Sn)の化合物を用いて,三重結合を有し動力学的に非常に安定な気体分子であるN2を解離,再結合する反応:3LixM+(x/2)N2⇔xLi3N+3Mに注目し,その反応メカニズムを明らかにすることで,『活性窒素』生成及び利用技術として新たな学術領域を創出するための基礎を確立することを目的とした。具体的には,LixM合金の作製,熱力学及び動力学特性の評価,電子顕微鏡等を用いた反応メカニズムの解明を行う。 Liと14族元素であるC,Si,Ge,Snをとの合金として,メカノケミカル法及び熱化学法を用いてLiC12,Li22Si5,Li22Ge5,Li22Sn5を作製した。これらの合金を窒素雰囲気下で熱処理した結果,いずれの場合も500 ℃以下で窒素との反応が見られ,LiとMの組成が変化することが分かった。特に,幾つかの合金では,室温付近でも窒化反応が進行することを示唆する結果が得られたことから,LixM合金は期待した通りの窒素解離能を有することが示された。このLixMとN2の反応において,合金の窒化を示唆する重量増加及びLi組成の変化(低下)が実験的に確認されているが,生成物であるリチウム窒化物(Li3N)はX線回折測定で観測されていない。これは,生成するLi3Nがナノサイズ或いはアモルファス状態であることを示している。そこで,北海道大学との共同研究として,透過電子顕微鏡を用いた生成物の観察を行った。その結果,合金粒子表面にLi3Nと推測される物質が粒子状或いはファイバー状で生成していることが分かった。また,Li3NとMの混合物を作製し,熱分析を行った結果,500 ℃程度で合金化が進行し窒素を放出することが分かった。 以上の結果は,上記の窒化/脱窒素反応が概ね予想通りに進行することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては,①LixM合金及びLi3N-M混合物の作製,②窒化/脱窒素反応特性の評価及びその反応メカニズムの解明に関する研究を実施した。 ①については,メカノケミカル法及び熱化学法を用いて目的とするLixM合金(M=C,Si,Ge,Sn)を得るための条件を明らかにした。また,副生成物を含まない混合物の作製にも成功した。②については,対象とする上記4種類の合金の窒化及び脱窒化反応特性の評価を実施した。また,透過電子顕微鏡を用いてナノサイズ或いはアモルファス状態のLi3Nの観察を行った。得られた結果は,本反応のメカニズムを議論する上で重要な知見を与えるものであった。生成物の同定については,学内設備及び透過電子顕微鏡を用いることで概ね達成されたため,高輝度放射光を用いた実験については実施しなかったが,今後必要に応じて利用を検討する。初年度に研究対象とする全ての合金の作製に成功したためこれら試料の反応特性評価に注力したが,熱力学特性評価等については次年度に取り組む予定である。 以上のことから,本研究課題は,申請時に提出した研究実施計画どおりに進められている。初年度に得られた研究成果の内容は,申請者が期待していた以上に興味深いものであった点では,計画以上の進捗度であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に従い,前年度に引き続き,Li合金の窒化/脱窒素反応特性の評価,及び反応メカニズムの解明を進める。特に,透過電子顕微鏡を用いた窒化物生成プロセスの解明については,北海道大学との共同研究を継続し,窒化反応のその場観察等を実施する予定である。 反応特性評価で得られた実験結果を基に,各Li合金の圧力-組成等温線(PCI)測定を実施し,熱力学特性の評価を行う。 Li合金の窒化/脱窒化反応過程で生成する原子状の活性窒素を窒化物合成に利用するため,論文等の文献を調査し,既存の窒化物及びその合成方法をデータベース化する。 作製したデータベースを基に評価に用いる窒化物合成プロセスを選定し,Li合金の窒化/脱窒素反応を用いた窒化物合成を実施する。得られた結果を既存技術と比較すると共に,反応過程での合金や生成物の状態を詳細にキャラクタリゼーションすることで反応メカニズムを明らかにし,活性窒素の有効性について議論する。
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