研究課題/領域番号 |
15K18237
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 愛 芝浦工業大学, 工学部, 助教 (90509374)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 |
研究実績の概要 |
近年、環境問題対策の観点から、輸送機器等の車体重量の低減を目的として、軽量かつ比強度の高いアルミニウム合金の利用拡大に対する社会的な需要が高まっている。本研究では、容易に作製可能な水蒸気を用いることで、アルミニウム合金に期待される高強度・高耐食化が同時に実現する技術開発ならびにそのメカニズムの解明を行う。具体的には、アルミニウム合金中のナノクラスタ形成を原子レベルで制御して高強度化を図るとともにアルミニウム合金そのものの耐食性を改善させ、その上で、そのアルミニウム合金に耐食性皮膜を形成させることでさらなる高耐食性を付与する。水蒸気を用いた新たな時効析出制御技術に加え、水蒸気プロセスを用いた耐食性皮膜形成技術を両軸に、全く異なるこれらの特性の向上を1プロセスで両立させることで高付加価値型軽量材料の創製を目指す。 本年度は、水蒸気プロセスの確立を図るため、プロセス条件の最適化を行った。高温・高圧化での処理が可能であるオートクレーブを用い、オートクレーブ内にてアルミニウム合金試料を設置し、各種条件(温度、圧力、溶液種)を変えて水蒸気を発生させて熱処理したサンプルを作製した。Al-Mg-Si合金に対しては、160~240℃の各温度で水蒸気プロセスを施した結果、試料表面に水酸化物の皮膜が形成することを確認した。さらに、電気化学測定により耐食性を評価した結果、腐食電流密度が大幅に低下することがわかり、水蒸気プロセスによって耐食性が向上することを明らかにした。一方、硬さ試験により機械的性質を評価した結果、水蒸気プロセスを施すことで最大160%まで硬さが増加することを確認し、本研究で提案した水蒸気プロセスによってアルミニウム合金の高強度・高耐食化が実現することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、「水蒸気を用いたナノクラスタの形成制御技術(水蒸気時効)の確立」を行った。これまでに、アルミニウム合金中に形成するナノクラスタの存在が強度に大きく寄与することを実証しているが、微小なナノクラスタの形成挙動を完全に解明するには、原子レベルでの解析が不可欠である。アルミニウム合金の時効硬化過程における溶質原子(置換型)の拡散速度は、合金中に存在する原子空孔の量に比例する。そのため、時効現象のキネティクスを理解するためには、原子空孔の挙動について知ることが重要である。そこで本研究では、ナノクラスタの微細構造ならびに形成挙動を陽電子消滅法により詳細に調べた。 具体的には、水蒸気を用いたプロセスの確立を図るため、プロセス条件の最適化を行った。高温・高圧化での処理が可能であるオートクレーブを用い、オートクレーブ内にてアルミニウム合金試料を設置し、各種条件(温度、圧力、溶液種)を変えて水蒸気を発生させて熱処理したサンプルを作製した。作製した試料に対して、3次元アトムプローブトモグラフィーおよび陽電子消滅法を用いてミクロ組織解析を行った結果、数10 nmスケールの極めて微細なナノクラスタあるいは析出物が形成されたことを確認した。硬さ試験から、プロセス前後の硬さが150~200%向上したことが見出され、水蒸気時効の有効性を提案することに成功した。一方、電界放出形走査型電子顕微鏡を用いた水蒸気プロセス後の表面形態観察により、試料表面において針状の結晶が形成されていることが観察された。これらの結晶は、XRD解析およびEDX分析により、AlO(OH)であることが同定された。AlO(OH)皮膜が緻密に形成された結果、電気化学測定から腐食密度が約100分の1に低下することがわかり、本研究で提案した水蒸気プロセスによって高強度・高耐食化が実現することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は、「水蒸気プロセスによるLDH含有耐食性皮膜形成条件の探索と皮膜の耐食性の評価」に着手する。現在までに、特定のプロセス条件で水蒸気処理を行うことにより、Al合金上に皮膜が形成できることを確認している。この皮膜はサブミクロンスケールの板状結晶で構成されており、この皮膜は主に結晶性の高いAl(OH)3で構成されている。この皮膜中にLDHを含有させるため、各種条件(温度、圧力等)を変えて水蒸気を発生させることにより、皮膜の形成を行う。 形成した皮膜の特性評価には、SEM、XRD、FT-IR、TEMを用いる。特に、XRDにより形成した皮膜の結晶構造を明らかにし、その皮膜の結晶子サイズをXRDやTEMを用いて評価する。水を用いた水蒸気プロセスの場合、Al合金中に含まれるAlとMgを原料として、 Mg-Al系のLDHが形成されることが予想される。そこで、LDHの層間アニオン種について、FT-IRを用いて調査する。皮膜中にLDHが形成されない場合には、Mg源の不足が考えられるため、Mgイオン源を溶液中に導入して皮膜の形成を行う。この際に、Mgイオン源のアニオン種を変えた実験を行い、インターカレーションに効果的なアニオン種を探索する。また、結晶子サイズと皮膜中のLDH含有量の関係もXRDやFT-IR等を用いて系統的に調査する。皮膜の耐食性評価には、電気化学測定および塩水浸漬を用いる。電気化学測定(分極測定)により、腐食電位、腐食電流密度、分極抵抗を算出する。また、塩水浸漬実験により腐食速度の算出も行う。これらの結果と皮膜形成プロセス条件の相関関係を系統的に調査し、プロセス条件の最適化を図る。
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