前年度に開発した電池の充電反応を利用して合成するNa-Mn-O系正極材料について引き続き高性能化に向けた検討をおこなった。電極材料の高性能化のアプローチとして構成要素である遷移金属の一部を異種元素で置換する方法が一般的であり、本研究においても元素置換による効果を検討した。Mn酸化物の一部を他の元素で置換したものを原料として用いると、置換量にほぼ比例して電極特性の低下が確認された。本手法による材料合成の手順は、はじめに遷移金属酸化物を充電時に高価数(4+)まで酸化させ、その後還元反応によりNaを挿入し電極活物質を合成する方法であるため、4価の遷移金属酸化物が安定でない場合、この方法は適用できなかったと考えられる。Mnを除く3d遷移金属のほとんどは4+で安定な酸化物を形成しないため、置換した他の元素は反応に寄与しなかったものと考えられる。そこで、次に異種元素置換の方法として、遷移金属が4価の状態まで酸化可能なNa正極材料を原料の第三成分として加えた所、第三成分に含まれる遷移金属が酸化還元種として機能し、その結果、高容量が得られることがわかった。特に第三成分として、P2型層状構造のNa2/3(Mn2/3Co1/6Ni1/6)O2を用いた場合、初期放電容量が240mAh/g、平均電位が2.8Vと元の材料の特性を超えるような高性能が得られた。初期放電プロファイルから計算される正極重量あたりのエネルギー密度が670 Wh/kgと既存のLi二次電池用正極材料を超えるような高いエネルギー密度が得られることがわかった。これらの材料の詳細な結晶構造、充放電メカニズムは明らかにできておらず、今後の課題として残った。
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